第11話 エピロト遺跡と調査欲
長時間の登山の末、ついに『エピロト遺跡』に到着した。
その遺跡は、集落のようになっていて、寂れた家があちらこちらにある。遺跡というよりも、遺跡群といえばいいだろうか。そして、遺跡の中央には、一際異様な雰囲気を放つ建物が建っていた。
「さて、着いたけど、これからどうするんだ?」
早速、樹生はエヴィラに質問をした。
「今から家を回って、調査を行う。」
「家に勝手に入ってもいいのか。やってることただの空き巣のように聞こえるけど…。」
「空き巣って…人聞きの悪い。遺跡って言ってんだから、誰も住んでないに決まってるだろ。」
「うん。知ってた。」
「君なぁ。」
樹生はエヴィラを少しからかいながらも、遺跡へと足を進めていた。樹生がエヴィラをからかった理由は、不安を紛らわせたかったからだ。洞穴の中で聞いた『何者か』。樹生はこれに少なからず不安と恐怖を抱いている。一体、どこで、どうやって出てくるのか。そんな疑念を抱きながら、自分たちは一つの家の前に着いた。
「さて、ここから調べていくか。」
そう言うと、エヴィラは無遠慮に扉を開けて中に入った。樹生は、慎重にその後をついていった。
中に入ると、少々埃臭いものの、荒れている様子はなく、家具の配置に生活の残り香を感じた。
「前に来たときも思ったが、ここまで荒れていないと異様に感じるな。特に、木造の部分は朽ち果ててもいいはずだが。」
エヴィラの意見に、知識はないながらも樹生は共感した。この家ができてから何十年、何百年経ったかは知らないが、家具などが未だに使える状態で保存されているのはかなり異様だと言えるだろう。
早速、エヴィラは引き出しや本棚を調べ始めた。樹生は何をすればいいかがわからなかったため、とりあえず机や壁などを見ながら歩き回っていた。
「ふむ、どれもパッとしないな。悪くはないのだが…。」
エヴィラがそのような言葉を漏らした。大方、研究資料になるものを探しているのだろう。
その言葉が聞こえた樹生は、エヴィラの近くに寄った。
「何を探しているんだ?」
「ん?ああ、研究資料だよ。」
「なんの?」
「なんのって、そりゃあ大厄災についてだ。」
「ふーん。」
自分で聞いたものの、さほど興味のない様子の樹生。
「あと、面白そうな過去の文献とか記録とかがあれば、新しい研究に使えるのだが。」
「どんだけ研究するんだよ。」
「一生。」
エヴィラは、さも当然かの様に答えた。樹生はエヴィラの言葉を冗談としか思わなかった。
エヴィラはある程度読めたのか、本を本棚に置き別の場所に移った。樹生は興味が湧いたのか、本を一つ手に取り読み始めた。
そこに書いていたものは、彼が知らない文字だった。
「…?何だこの字?」
樹生が知らないのも当然だ。その文字は、その世界特有の文字なのだから。
しかし、樹生はこの文字を見たことがないわけではない。一応、町中で何度か見かけてはいる。だが、彼がそれを読めたことは一度もない。
読めないとすぐに判断した樹生は、エヴィラに聞いた。
「なあ、これってなんて書いてあるんだ?」
「ん?これは、『怠惰のエンパライワ』と書いてあるんだ。」
「『怠惰のエンパライワ』?」
エヴィラが答えた内容は、樹生にとってはよくわからないものだった。
「ああ。怠惰のエンパライワとは、『人災の大罪者』のうちの一人で、己の怠惰欲によって周りの人間を怠惰にさせ、文明を滅亡まで追い込んだ存在のことだ。」
「えっ?!そんなやつがいたのか?!」
その言葉の詳細を聞き、樹生は心底驚いた。
「まあ、おとぎ話みたいなものだが。」
「あ、ああ。まあ、そうだよな。」
樹生はその言葉に、安堵の息を漏らした。
「過去にここに来たときもそれについての文献が大量に出てきた。どの家にも必ず一個はあるというくらいにはな。」
「へぇ。てことはなにか関係があるのか?」
「まあ、もしかしたらな。」
そんな話をした数分後
「...この家を出るぞ。」
「えっ?!もう出るのか?」
少々不満げな顔をしたエヴィラがそう言った。
「ああ。もう、調べたいことは調べ終わったからな。この家でこれ以上新しい知識を得られないと判断した。」
「えぇ。」
「何ぼさっとしてるんだ。さっさと行くぞ。」
その後も、樹生達は家に入っては調べものをして出るということを繰り返した。しかし、エヴィラの不満は収まらなかった。どうやら、お気に召す情報は得られなかったようだ。
そして、残された家はただ1つとなった。
「最後はここだな。」
「なあ、大丈夫なのか?」
「ん?何がだ?」
「なんかこの家不気味というか、この家だけ他の家と雰囲気が違うし...。」
目の前にある家に対して、樹生は多少の恐怖を覚えた。
「あぁ、きっとこの家が一番最初に造られたんだろう。明らかに年季が違うからな。」
たしかに、目の前の家は他の家と比べてかなり寂れていた。だがそれ以上に、
「それもそうだけど、この家大きすぎない?」
大きかったのだ。もはや要塞と呼べるくらい、他の家より大きいのだ。
「ああ、そうだな。ここまで大きいと調べるのにかなり苦労しそうだ。だからこそ、知識欲が刺激される。」
どうやら、エヴィラはかなりワクワクしているようだ。その様子を見た樹生は若干引いた。
「さて、早速行くぞ。」
「えっ?!ちょっと待って〜。」
こうして、樹生達は最後の家に入った。この家に何があるとも知らずに。
「ククク…こいつを使えば…。」
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