第10話 自然の驚異と探検欲
盗賊と戦った翌日、樹生たちは前日と変わらずに登山を続けていた。
あの後、樹生たちは、盗賊たちから使えそうなものを奪って、死体に関しては適切に処理をした。ちなみに、奪うことを提案したのはエヴィラだ。
―これじゃ、どっちが盗賊なのやら。
結局、樹生は人を殺したことについて一晩では折り合いをつけることができなかった。今も、登りながら昨日のことについて悩み続けている。なので、
「…うわっ!」
「何躓いているんだ。登山に集中しろ。しょうもないことで怪我するなよ。」
このように躓いてしまう。
こうして、登山をすること数時間。周りの木々がなくなり、気温が下がってきた。
「寒くなってきたな。」
「木々がなくなったから、2000
「ああ。」
もうそんなに進んだのかと、樹生は驚いていた。一日1000mくらいのペースで進んでいたのだろう。だが、ここからはそううまく行かないだろう。樹生は、あともう少しで着くという嬉しさの反面、これ以上に険しくなる自然への絶望の両方を同時に感じていた。
数十分後。天候は荒れに荒れ、現在は絶賛猛吹雪。そのため、視界も悪くなっていた。
「このまま進んで大丈夫なのか?吹雪が止むまで休んでもいいんじゃないか?」
「確かに、この吹雪だと進むのは難しいが、ここでは休められない。」
「えっ?!それはどうして?」
「ここだと吹雪に当たりながらとどまることになる。普通に考えて危険だろ。」
「な、なるほど。」
「だから安全地帯に行く。」
「それって、どこにあるの?」
「もうすぐ着く。」
樹生はその言葉を信じて、エヴィラの後ろについていった。
しばらくすると、小さな洞穴が見えてきた。大きさで言えば、2,3人が入る程度の大きさだろう。
「よし見えてきた。ここで休憩するぞ。」
「ああ、わかった。」
洞穴に着くと、樹生は荷物をおいて地面に腰を下ろした。エヴィラは、樹生の向かいに腰を下ろした。
「よくこんな場所知ってたな。」
「まあ、一度来たことがあるからな。」
「えっ?!なら、なんで今回行くことになったんだ?一度行ったことがあるなら、また行かなくてもいいと思うんだが…。」
「ふむ、理由を一つ挙げるとするならば、前に行ったのが20年以上も前だからだ。」
「に、20?!」
樹生は思った数字より大きな数字が出てきて驚いてしまった。しかし、よく考えてみれば、エヴィラは教授なのである程度年を取っていてもおかしくないと、樹生は自己解釈をした。
「なるほど、20年も前ならなにか忘れているかもしれないのか。」
「あぁ、いや。勘違いをしているようだが、私は前回ここに来たときのことは明確に覚えている。」
「えっ」
樹生は数字から予想できることを言ったら、簡単に否定されてしまった。
「覚えているし、何なら情報を書き留めたりしていたから忘れるはずがないんだ。」
「じゃあ、なんでまたここに来ることになったんだ?」
「それは、前回の調査では完全に調べきれなかったからだ。」
「えっ?!」
その返答に対して、樹生は驚きが隠せなかった。短い間だが、エヴィラの性格や用意周到さ、疑り深さなどをなんとなく理解してきたので、調べ残しをするとは到底思えなかったからだ。
「その時、何者かによって仲間を殺されてしまってね、他の仲間もその何者かによってボロボロになってしまったため、撤退を余儀なくされたんだよ。」
エヴィラが語った真実に対して、樹生は改めて驚いてしまった。かつて、エヴィラはその仲間を何者かによって失ってしまっていることに。
「辛気臭い顔をしているが、20年も前の話だ。流石に引きずってはいない。それに、仲間たちも死を覚悟して調査に出向いたんだ。君が悲しむ必要性はないさ。」
その言葉を言ったエヴィラの表情は、随分と平気そうな顔をしていた。どうやら、本当に気にしてはいないらしい。
その表情を見たことによって、樹生も悲しみの感情を改めることにした。そして、エヴィラにとある疑問をぶつけた。
「その、何者かって誰か分かってるのか?」
「あー、それについてなんだが、実際自分でも分かってないんだよ。」
「えっ?!その時に見たりしなかったのか?」
「いや、分かっていたら何者かなんて言わないだろ。」
「た、確かに。」
今の発言によって、エヴィラでもわからないことがあるのだな、と驚きと妙な親近感を樹生は覚えた。
そのような話をしていたら、いつのまにか二時間ほど時間が経っていた。しかし、外の様子は先ほどと変わらず吹雪のままだ。
「一向に止みそうにないな。」
「まあ、想定内だ。」
「想定内って、じゃあどうするんだよ。このままだと登れないぞ。」
「いや、登れるね。」
―その自信は一体どこから来るのか。
不安と同時に疑問が浮かんできた。
「とりあえず、準備しろ。十分休んだだろ。そろそろ行くぞ。」
そう言うと、エヴィラは荷物を片付け、行く準備を始めた。それを見て、樹生も慌てて準備を始めた。
「さて、行くか。」
「ねえ、本当に行くの?全然先が見えないんだけど。」
目の前では吹雪が吹き荒れ、1m先すら見えない状態だった。さらに、防寒着を貫通するほどの寒さが動こうとする体を蝕む。
「流石に危なくないか?やっぱり、吹雪が止むまで休んだほうが...。」
「いや、次に吹雪が止むのがいつになるかわからない。そんな状態であそこで待っても、食料が尽きて餓死するだけだ。」
「…。」
その言葉に対して、樹生は何も反論できなかった。
「それに、君はわからないかもしれないが、実は洞穴に入る前より吹雪が弱まっているんだ。」
「そ、そうなのか?」
「ああ。だからこそ今しかないんだ。」
「まあ、お前が言うのなら。」
こうして、自分たちは洞穴を出て、登山を再開した。
しかし、なかなかうまくいくわけもなく、吹雪による視界不良と足元の不安定さによってうまく前に進めずにいる。
なんとか、それらに耐えながら進んでいると、どこからか重々しい音が聞こえてきた。
「…?この音は?」
「…!まずい、今すぐそこの岩陰に隠れろ!」
樹生はいきなりのことに反応しきれず、その場に立ち尽くしてしまった。すると、地響きもしてきた。それらの現象に恐怖してしまい、足が動けなくなってしまった。そして、前を見ると、白く大きな波が押し寄せてきた。雪崩だ。
「…!何やっているんだ!」
樹生がその場に立ち尽くしていると、エヴィラによって引っ張られ、いつの間にか岩陰にいた。
その直後、大きな音が自分たちの上を通った。岩のおかげでなんとか雪崩に巻き込まれずに済んだようだ。
しばらくすると、音が鳴り止み、雪崩が通り過ぎた。樹生が安堵の息を漏らすと、
「なんで、すぐに岩陰に隠れなかった?」
エヴィラが少し怒った様子で樹生に問いかけた。
「いや、それは、恐怖で足が動かなくて…。」
「…もう少しで死ぬところだったんだぞ。」
「…。」
「死ぬことと動くこと、どちらが怖いのか、分かるだろ。」
これらの言葉に、樹生は何も言えなかった。普段の様子からは考えられない、エヴィラの怒っている様子は樹生自身の心を締め付けた。
「…まあ、動けなかった理由も自分でわかっているようだし、今回はこれ以上何も言わない。だが、難しいかもしれないが恐怖は取り払え。その恐怖は、いつか君を殺すことになるぞ。」
その言葉は、強く樹生の心を打った。恐怖、どうやらこの問題については早急になんとかしなければいけないらしい。
「さて、うだうだしてられない。行くぞ。」
そう言うと、エヴィラは先に進んだ。樹生はその後を急いでついていった。
そうして、吹雪に耐えながら登っていくと、坂が緩やかになり、謎の建物が見えてきた。
「どうやら、着いたようだな。」
「や、やっとかぁ。」
ついに、目的地である『エピロト遺跡』に到着した。
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