第一章 山岳遺跡を目指せ

第6話 新たな遭遇欲

 カルニー町を出てから、約6日。今は、次の目的地であるエピロト山…ではなく、その麓にあるモスク町を目指している。どうやら、エピロト山に入る前にそこで準備をするようだ。そのため、この6日間で町や村を転々としながら、歩いてきた。

 この6日間、特別なことは何も起こらなかった。一日か二日移動して、町に行く。時々、街で買い物をしてすぐに出る。移動している最中に動物を見つけたら、適度に狩る。そんなことを繰り返して今に至るといった感じだ。

 しかし、樹生自身は自分の中で何かが変化しているのは実感していた。例えば、動物を狩るのに躊躇がなくなったことが挙げられる。初めてレッドボアを狩った時もそうだったが、初めのころは動物を狩る、つまり殺すことに少しばかし躊躇していた。しかし、それでは自分が生きていけないと理解し、今は躊躇をしなくなった。昨日、シカに似た「ガデアル」という野生動物を狩った時も、冷静にガデアルの腹にめがけて短剣を刺した。

―そういえば、欲についていちいち考えなくても、欲をコントロールできるようになった気がするな。欲の使い方といえばいいのだろうか、それがなんとなくだが理解できるようになった。短剣が刺しやすくなっているのも、欲が影響しているんだろうな。正直、欲によって力が増減する仕組みがいまだにわからない。本当にどうなっているんだ?

 そんなことを考えながら歩いていると、エピロト山がだんだんと鮮明に見えてきた。


「今日中には、モスク町に着きそうだ。」

「そうなのか?!よかったー。やっと着くのか。」

「ああ。モスク街についたら一旦休もう。流石に登山をするのに、疲れた体では危険だからね。」

「おお、良かった。今までみたいにすぐ行くのかと思ったよ。」

「まあ、今回は流石にな。それにエピロト山はレイノール王国から遠いしな。」

「合計8日も歩けば、流石に遠いことくらいわかるよ。

 …しかし、今まで行ってきた町では、俺たちの指名手配書とか見なかったし、悪い噂すら聞かなかったぞ。本当に俺らは指名手配されてるんだよな?」

「さあな。」

「さあなって、お前が指名手配されるかもって言ったんじゃないか。」

「結局、それも推測だからなぁ。だが、実際ここまでなにもないのは私も怪しいと感じている。なにか企んでいるのか?」

「お前もわからないのかよ。」

「まあ、可能性が消えたわけではない。警戒しておいて損はないだろう。」

「たしかにそうだが…。」


 樹生は納得仕切れないが、警戒しておいて損ではないという言葉に同意する。樹生自身、エヴィラの言葉を未だ信じきれない部分が多いが、この世界について無知すぎるので、この悪魔の言葉が唯一の頼りになっている。仕方なく、この悪魔の意見に従わなければならないのだ。


「はあ。」


 ため息が出てしまう。どうやら、この悪魔を信用しきれていないらしい。まあ、最初から信用できる要素が一つもないのだが。


「ため息なんかつくなよ。ほら、もう少しで町だ。顔を上げて気合い入れろ。」

「…わかったよ。」


 ここは森の中。油断するのは普通に危ないので、樹生はすぐさま前を向いた。すると、そこには…



 を持った少女がいた。

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