第1話 異世界召喚と欲
「目覚めよ。異界の存在たちよ。」
聞き慣れない声とともに目を覚ますと、いつもとは違う見慣れない光景が目の前に広がっていた。
周りには、おそらく
いや、よく見ると、人間だけではない。周りを囲む存在の中には、人間とは思えないような格好をしている者もいた。
「えっ…。」
「夢…なのか…?」
樹生と同じような状況に立たされている男女のうちの誰かがそう呟いた。
樹生自身もそう思いたかっただろう。正しく夢のような状況に、興奮と困惑の感情で入り乱れた。
どうやら、他の男女も同じようだ。
「どうやら困惑しているようだな、異界の者たちよ。しかし、冷静になるのだ。君たちは選ばれたのだ。我々を救うものとして世界に選ばれ、召喚されたのだ。」
周りを囲む大人たちの中で、一際歳を重ねているであろう人物が、樹生たちにそう語りかけた。その言葉を聞けば、冷静さを取り戻すどころか、興奮が勝ってしまう。「世界に選ばれた」なんて言葉を聞けば、大半の人は興奮するに違いない。実際に、樹生を含めた男女は、その言葉を聞いて興奮している様子だった。
特に樹生は、ゲームや漫画などのサブカルチャーがとても好きで、この手の作品はかなり読み込んでいたので、この中の誰よりも興奮していただろう。
「救世主様方を床に座らせ続けるわけにはいかない。ささ、こちらへ。」
その言葉とともに、老人は奥の方へと向かった。樹生たちも立ち上がり、老人の後ろについていった。
廊下を見渡せば、現実感のない、正しく異世界と言える装飾が施されていた。どうやら、本当に彼らは異世界に召喚されたようだ。
老人の後ろをついていくと、一つの大きな部屋にたどり着いた。机がいくつか並べられており、その机を囲むように椅子がおいてある。見たところ食堂のようだ。
「すみません、救世主様方。ここは研究所故に、特別豪華なわけではないのです。」
老人の言葉に樹生は納得する。道理で、周りを囲んでいた大人たちが白衣を着ているわけだ。ここが研究所ならば、周りの大人たちは学者、もしくは研究者なのだろう。
「いえ、大丈夫です。むしろ、私達をもてなしてくれるだけでありがたいことなのですから。」
召喚された男女の中で、おそらく一番高齢な男性が返事をした。
「しかし、私達のことを救世主と呼びましたが、一体何を救えばいいのでしょうか?」
「そうですね。では、教えましょう。救世主様方に救っていただく我々の世界の現状について。」
「現在、我々の世界はとある一つの危機に迫られています。その危機とは『
「えっ…。」
大厄災という日常生活では聞かないであろう言葉に、樹生たちはあっけにとられてしまった。
「その事実が発覚したとき、我々は直ちに大厄災に対して対策を取らなければと考えました。しかし、過去の文献に大厄災への対策は載っておらず、我々からも具体的な対策は挙がらず、頭を抱えてしまいました。
そんなある日、一人の研究者が『召喚術を使い、異界の者たちを呼ぼう。』と提案しました。
『異界の者たちなら、似たような厄災に立ち向かった経験があるかもしれない。』
そんな願いを込めて、救世主様方を召喚した次第であります。」
「なるほど、ありがとうございます。あなた方の現状がよくわかりました。しかし、私達も大厄災と呼べるほどのものを経験したことはありません。大厄災の内容を具体的に教えていただけませんか?」
「ええ、構いません。過去の文献によると、世界中に大きな地震により地は割れ、嵐により街は吹き飛び、世界の外側から津波が押し寄せ、あらゆる生物を飲み込んでしまうのです。」
「世界中を巻き込む地震と嵐と津波が…?!」
「ええ、そうです。」
詳細を聞き、樹生は更に驚いた。そんな誰も経験したことのないものについて、一体何ができるのかと皆が不安になってしまった。
「…説明していただきありがとうございます。しかし、私はそのような災害に襲われたことはありません。他の人たちはどうですか?」
30代の男性が自分を含めた他の召喚者たちに聞いてきた。
「俺はないな。」
「俺たちもないぜ。」
「そうよ、私達もそんなもの知らないわよ。」
「僕もないですね。」
どうやら、他の召喚者たちも意見は同じようだ。
「ありがとうございます。
このように、私達はそのような災害に襲われたことはなく、明確な対策を挙げられると思いません。まして、救うなんて。少なくとも私にはその大厄災を止めるような力を持ち合わせていません。
そんな中で、私達は一体何をすればいいのでしょうか?」
「いえいえ、ご謙遜なさらずに。あなた方は大厄災に対抗できるだけの力を持ち合わせています。少なくとも、あなた方の存在だけでも大厄災に対するカウンターになり得るのですから。」
その言葉を聞いたとき、樹生は心が跳ねるように驚いた。自分に大厄災を止めるだけの力があるだなんて。そんなのワクワクせずにはいられないだろう。
「えっ…ちょっと待って。なんか勝手に話が進んでるけど、私達はいつになったら元の世界に帰れるの?私たち次の日もデートの予定があったんだけど。」
高揚感を抱いていたとき、召喚者のうちの一人の女性がそう言葉を発した。そして、その言葉に同調するように、ずっと女性の隣にいた男性も言葉を発した。
「そうだそうだ、大厄災だかなんだか知らないが、俺らは明日のデートのほうが重要だ!俺らに世界を救う義理なんてないんだぞ!勝手に話を進めるんじゃねえ!」
確かに、この男性が言っているように、樹生たちがこの世界を救う義理はない。むしろ、元の世界に帰れるかどうかのほうが重要かもしれない。そう樹生が考えていると、
「落ち着いてください、救世主様方。元の世界に帰る方法はあります。すべてが終わり次第、必ずや帰らせるということを約束いたしましょう。」
「あ…あぁ。そうか、ならいいんだ。本当に帰れるならな。」
どうやら、男性も困惑しながらも納得したようだ。樹生も帰れると聞いて安心した様子だ。
「では、きゅうせ…おっと、すみませんでした救世主様方。説明を先急ぐばかりで、自己紹介を忘れてしまいました。私は『モーラン・ケイ』と申します。ここ、レイノール王国にある研究所の所長です。以後、よろしくお願いいたします。」
「よろしくお願いします。…では、私達も自己紹介をしましょう。まずは、私から。
私の名前は『
30代の男性が答えた。その言葉とともに、自己紹介をする流れになった。
「じゃあ、次は私。私の名前は『
「おっ。ありがとな。俺の自己紹介もしてくれて。さすが、俺の彼女だぜ。」
「いやん、それほどでも。」
次に、召喚されてからずっとくっついていた男女が答えた。
「あっ、えっと、次は僕ですね。えっと、僕の名前は、『
その次に、樹生と同じくらいの少年が答えた。どうやらこの中では最年少なようだ。
「最後は俺ですね。俺の名前は森川樹生です。年齢は19で今年で20になります。一応、大学二年生になります。」
最後に樹生の番となり自己紹介を終えた。
自己紹介を終えると、モーランが話をし始めた。
「では、これから皆様の救済の一歩として、各々別れて、各学者についていただきます。」
「おいおい、さっきの話聞いてたのか。俺と玲菜は付き合ってんの。こんな知らねー場所で別れるわけねーだろ。」
モーランが話していたら、輝龍が話を割って意見を言ってきた。確かに、知らない場所で一人になるのは心細いだろう。
「落ち着いてください救世主様方。別れていただくのは、一時的にであります。しばらくすればまた会えますので。」
「いーや。嫌だね。俺らは別れたくないんだ。それに、俺らは救世主なんだろ。なら、これくらいの意見としてくれてもいいじゃないか。」
「あぁ、いや、しかし…わかりました。特別に、あなた方は一緒にいさせます。」
「当たり前だ。」
どうやら、双方納得したようだ。
「では、救世主様方。各々、近くにいる学者についていってくださいませ。詳細は後に。」
モーランがそう言うと、数人の学者が自分たちに近づいてきた。そして、のそばに一人の学者が近づいた。
「あなたは私についてきてください。」
学者の中で唯一、人間ではないであろう見た目の人物が近づいてきた。
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