第3話

 俺と久美香は、お互いに口には出さないが、気持ちは分かりあえていると感じ合えていたと思う。ただ、俺はまだ既婚者な訳で前のめりとは行かない。

でも……逃したくなくて。

久美香を見つけると、どうしても声をかけてしまう。

「ねぇ、お昼いいとこ見つけたんだ」

「ジャズが流れている美味しい飯屋見つけたから行ってみよう」

とか、残業していれば、つい手伝ってしまう。そんなイジイジした

関係が劇的に変化したのは、プロジェクトの成功で打ち上げが行われた時のことだった。その夜は、社内で軽く乾杯をしたあと、六本木のクラブがメイン会場だった。俺は離婚の件で、急遽妻と話し合う事になり、それには参加せず帰った。一応久美香には、後日連絡すると約束はしていた。

 あのいい加減女が話し合いをすっぽかし、俺はかなり苛々していた。今からでも六本木に行こうかと思っていた矢先、携帯がなった。同僚の山藤だった。

「もしもし? どうし…えっ!」

「京弥の嘘つき! 嘘つき嘘つき……わあ~ん」

なんだ? 誰?

「君誰? 山藤は?」

「わあ~ん君誰だって!」

周りから酷いとか人でなしとか聞こえてくる。

「ちょっと貸して、ほら貸して!お~お疲れ京弥。さっきさ話しの流れで、お前が結婚していること山中さんに喋っちゃってさ。ごめん……だって知っていると思うじゃない。そしたら……こんな感じに……本当悪い。彼女もうべろべろだよ」

騙すつもりは無かった。出来れば知らないでいて欲しくて……。

最早離婚しているも同然だし。

「いや…俺が悪いんだ。今からタクシーでそっちに行くから。それまで彼女見ていてくれるか?」

電話を切ると背後から声が、

「どこ行くのよ。今から話を」

「はあ? お前馬鹿? 阿呆らしい」

俺は財布と携帯を持つと、スウェットにジャケットを羽織り、部屋を飛び出した。

ごめん……ごめん……。

六本木のクラブから彼女を連れ出すと、彼女は近くのドーナツ屋に入いりたがった。

食べたい! ドーナツ食べたいと泣きながら駄々を捏ねる。仕方なしに入ると、ドーナツを端らか注文した。目の前に詰まれたドーナツを見て嬉々と為ている彼女。

この…酔っぱらい娘が……然し可愛くて堪らん。

「京弥の嘘つきバカ。好きなのに! 大好きなのに!」

「ごめんね。もう離婚寸前だからさ。離婚していると同じだと……」

「バカ! 寸前としたでは雲泥の差だぞ! 私不倫になるかならないかの瀬戸際だから! 不道徳男!」

言いたい放題だな。とにかく何処かで寝かさないと。

「ホテル行こう」

「助平!」

そう叫んでテーブルに突っ伏し寝てしまった。

ドーナツを三パック持ち、久美香を抱え……何処……仕方ない道玄坂行くか。

とりあえずラブホに入った。

未だ意識不明の酔っぱらい娘。

ベットに寝かせてまじまじと見つめる。決して美人ではないが、愛嬌があるんだよな。

隣にそっと横になると、

「ふう~バカ……キョ…好き……」

えっ? 寝言かぁ。

こいつ目が覚めたら何て言うのかな。きっとなんも覚えてないよな。

やべぇ、俺も寝てしまった。

うん? 顔ちかい……うわぁ!

「なんで? なんで? 私魅力無かった?」

はあ? 何? 何言ってるの?

「だからぁ、私魅力無かった?」

「ちょっと待て。目覚めの初っぱながそれ?」

「うん……だってさ、私昨日のまんま。普通はさ、えっ! やだ! 私なにも着てない! って驚くんでしょ?」

でしょ?って言われてもねぇ、あなた! 流石に泥酔為ている女性をなんとかするのは……犯罪ですから。こういう行為は合意のもとにでしょ?

「いやいや……君ね~あの泥酔じゃ、為たくても出来ませんよ」

しばしの沈黙。

「気持ち悪い……」

蹌踉けながらトイレに飛び込んだ君。俺はその背中を擦る。

「大丈夫?」

「……ぶくない……ゲ~」





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