第2話

 私、山中久美香が京弥と逢ったのは、京弥が期間限定のプロジェクトに派遣されて来た時だった。素直に格好いいと思ったけど、でもそれだけだった。

何故なら京弥は、仕事は出来たがいけ好かない男だった。偉そうにいつも人を見下している。背が高いからそう思うんだって、周りは京弥の肩を持つが私は認めない。

だいたい人に物を頼むときは、忙しいところ悪いけどとか、すまないけどとか、枕言葉をつけろよ。仕事だから当たり前だろうみたいに言われたら、カチンとくるでしょうよ! バカチンが。

 プロジェクトも軌道に乗り始めると、最初の頃よりは京弥も偉そうではなくなっていたが、嫌いな奴には変わりない。

「ねぇ、帰りにお茶飲まない?」

社内でナンパか? 馴れ馴れしく声掛けてくるなよ。

「はあ? 私?」

「そう君だよ。この前話したじゃない、美味しいケーキ食べに行こうって」

うん? まさか社交辞令を本気にしたのか? 参ったな。

どうする? まあデート飛んだし、奢らせてしまえ。

「別に良いけど、私そこじゃないとこがいいなあ。ほらもう一個の方」

「ケーキバイキングの方?」

頷く私。

「オケーじゃあ後で」

私達はお店の前で待ち合わせをして中に入った。

見わたせば、殆ど女性だらけ。

カップルもいるにはいるが。

なんだ? 知り合いでもなにのに

やたら笑顔でこちらを見ている女性陣。

「素敵ねあの方」

「恋人……かしら。なんか勿体ないわ」

ハア? もしかして? いやもしかしなくても私達のことか!

なんて言われようだよ。腹立つ。

「この時間なら食事でも良かったね」

確かに一瞬そう思ったがお酒は拙い。私は弱いのに飲んでしまう。周りからは質が悪いと言われていて、よく知る仲間としか飲まないようにしていた。

「まあ、でも約束はケーキだからさ。あっ、嫌だったら解散でも良いよ。不釣り合いらしいから」

「何? なんて?」

「何でも無い」

席に案内されて一息つく。

「さあ、お先にどうぞ」

「おや、流石イケメン! レディーファーストですか。それではお言葉に甘えて」

然し凄い数……どれも美味しそう~悩みながらチョイスしいていく。やっぱりアップルパイ、モンブラン、サバラン、えっチョコレートパフェもある。シブストも外せない。あぁ…悩ましい! あいつこっちを見てる。遅くてごめんね~。とりあえず係の人にチョコレートパフェは無くならないか確認して、初めに選んだ三個を皿に乗せて戻った。

「結構悩んでたね。しっかしデカいなぁ」

「うん! だってどれも美味しそうなんだもん。ではどうぞ君も悩んで来て。私お先食べてますう」

「どうぞどうぞ、時間制だから」

旨い! 旨い! と食べている私を見て、戻って来た京弥が思わず叫ぶ。

「はや! カバか」

「カバだと! って……美味しくて手がとまらないの! でっ何選んだ?」

「ニュヨークチーズケーキとプリンアラモード」

「可愛い! プリン好きなんだ」

「うん! アラモードは特別感あるでしょ?」

「あるある。兄貴もおんなじ事言ってた」

「お兄さんいるんだ」

「うん二つ違い。うんじゃお替り行くね」

笑って手を振る姿がとんでもなくキュートだった……。

 翌日から私達はごく自然に、

いや……ひとっ飛びによく話す同僚になっていた。

そして偶然にも同じ線を使っている事もあり、行き帰り出逢うことが多くなっていく。

 私はその頃恋人と別れた。自然消滅? 聞こえはいいが、そう仕向けたのは多分自分。

それは……心の中は別の人で溢れ出していたから。



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