嵌ったのは

紫陽花の花びら

第1話

 三十歳を目の前にして俺加賀美京弥は、離婚問題で妻と揉めている。そもそもこの結婚には無理があった。お互いに人生を共になんて考えてはいなかった。そんな話し一度も話したことが無かった。

だから、大学卒業前にお互い合意のもとに別れた。然し……そう思っていたのは俺だけだった。

単なる別れ話では留まらず、最も厄介な方向へと、向かってしまたのだった。

 二日後、妻は俺の部屋で自殺未遂を起こした。遺書には俺に弄ばれていた事を知らずにいた事。一方的に別れを言われたこと。自分は俺に尽くして来たことをこれでもかと綴っていた。当然妻の両親は地方から駆けつけて来て、俺の親と話したいと詰め寄ってきた。覚悟を決めて京都から親を呼び、双方の親と俺たちは幾度も話し合い重ねた。その結果、どうしても俺と結婚したいという妻の固い意志を尊重にする事になり、俺は気持ちの中のモヤモヤを抑え込み、男として責任を取る形で卒業と同時に籍を入れた。

 結婚後、些細な事で大喧嘩になったとき、あいつは本音を吐いた。

「こんなに文句ばっかり言っているのに、何故結婚したいなんて言ったんだよ。別れる事はお前だって納得為てたよな。いや別れたいって言ったろ」

「いってません。別れても良いかもと言っただけ。まあ頷いたかも知れないけどね。何一つはっきり言ってないから。結婚したがったか? そんなの決まってるでしょう。楽だからよ」

「ハア? そんなことで命かけるか? 遺書に噓まで書きやがって」

「アハハハ。ちゃんと数えて飲んでるし、今どきあんなじゃ死にませんから。それに京弥って京都のいいとこのぼんぼんじゃん、それも魅力的だよね」

何? ふざけてんじゃないぞ。

お前どんな性格だよ……怖いぞ。

 それ以来俺は、自分でも驚くほど冷たい人間になっていく。そんな時、妻は銀座の小さなクラブに勤め出した。で、そこで浮気相手に出会うことになる。

それから帰ってこない日が数ヶ月続けば最早離婚だろう。

離婚届けを出したその途端、

この部屋よこせだ、慰謝料よこせとあいつは勢いづいてくる。

バックには、浮気相手が付いているのは判る。畜生……。

 付き合って約三年、結婚して四年目。費やしたのは無駄な時間だけだった。積み重ねたものなんて何もない。ほんと冗談じゃ無い。

こうなったら、あいつが痺れを切らすのを待つつもりだった。

 彼女に逢わなければ俺はそうしていただろ。絶対に。


 

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