文法的にNGなのである

西野ゆう

第1話

 他のユーザーの作品はいくつか読んだものの、お題に関する意見はあまり目にしていません。

 意見は目にしていないけれども、多くの人はこう思ったはず。

「お題がおかしい」

 と。

 なぜそう感じるのかハッキリわからない人もいたかもしれない。ただ、モヤモヤする程度だったかも。

 もう一度お題を確認してみましょ。

「深夜の散歩で起きた出来事」

 主語、分かりますか? って質問はあまりに失礼か。いや、読み専さんと呼ばれる人々の中には文法苦手って人もいるかも。

 主語は「出来事」ですよね。

 述語は「起きた」です。

 実は「出来事」が発生した場合に使う動詞は「起こる(終止形)」なのです。

「起きる(終止形)」という動詞は、本来人や動物が主語の時にしか使いません。

 ですから、今回のお題を正しく書くとこうなります。

「深夜の散歩で起こった出来事」


 さて、「本来」と言いましたが、本当に本来は、って言う程度です。現在では出来事でも「起きる」という言い方が浸透しています。ですので、「間違っている!」と強くは言いにくい。

 じゃあ、なんでまだモヤモヤするのか。

「起きた出来事」というのが、重言じゅうげん、二重表現っぽいんですよね。

 漢字がダブっていないので、はっきりと分かりにくいですが。

 重言ではないとしても、スマートな表現じゃない。


「深夜の散歩で起こったこと」

 あるいは、

「深夜の散歩での出来事」

 のどちらかならまだスッキリするのに。


 ああ、なんということでしょう。ここまで書いて約600文字。

 足りない。字数が。


 では、この先はお題に沿った物語を。


 ★ ★ ★


 星は降らない。なのに星降る夜、なんて言う。

「流れ星も流れるだけだもんな」

 深夜に酔い覚ましのための散歩をしながら、空を仰ぎ見る。

 その行動のなんと危険なことか。なんと愚かなことか。

 クラクションの音に気付かなかったわけではない。ただ、それよりも驚くべきことが起こった。

「当てつけか? 星なんか降らしてんじゃねえよ」

 神様に悪態を吐いた。そうしたくなるほどの恐ろしい光景だ。

 全ての星がこの場所一点に向けて降ってきたのだから。

 車にはねられたのが先か、無数の星に貫かれたのが先か。

 もう思い起こすことすらできない。

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文法的にNGなのである 西野ゆう @ukizm

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