第12話 もう戻れなくても

『シオナが帰ってこないの!』


 その言葉を聞いた僕は真っ先に星谷さんの家を訪れた。チャイムを鳴らすと、バタバタと音が鳴り星谷さんが現れた。


「シオナっ・・・!?ってケーキ君?」


「ごめん急に来て、それよりシオナちゃんが」


「そ、そうなの!どうしようケーキ君!!」


 そう言うと星谷さんは俺の手をギュッと握ってきた。


 僕はそれに少し心臓の鼓動が大きくなるのを感じだが、すぐに冷静に答える。


「大丈夫、途中まで送ってそんなに時間も経ってないからそう遠くには行けないはず、手分けして探そう」


「うん!それじゃあウチは学校の方探してくるから!」


 すると星谷さんは手を離すと家の鍵を閉め颯爽と階段を駆け降りていった。


「さてと、僕はどこを探したものか・・・」


 まずは心当たりがないか考えてみるか、でもそんな場所なんて・・・


「そういえば別れる直前何か言ってたよな。ダメもとであそこの公園行ってみるか」


 10分ほどしてその公園に着くと、1人の少女がブランコに腰掛けていた。シオナちゃんだった。


「シオナちゃん!!」


 俺がそう言って近づくと、彼女はコッチを向いて微笑んで言った。


「お兄さん、どうしてこんなところに?」


「ほした・・・甘美さんから連絡があって、何で家に帰らないの?」


「それは・・・」


 シオナちゃんはそこまで言うとまた何も言わず下を向いてしまった。


 僕は隣のブランコに腰掛けて、しばらく待つことにした。


 すると不意にシオナちゃんが口を開いた。


「帰ったら、自分の現実を受け入れないといけませんから・・・」


「現実?どういうこと?」


「それは、言わないと分かりませんか?」


 そう言うとシオナちゃんは立ち上がって僕の前に来て言った。


「好きです、啓紀さん」


 僕はその言葉に驚きはなかった。何となくそんな予感はしていたからだ。けれど、そう思うことは驕りだと、自意識過剰だと思い向き合ってこなかったんだ。


 答え方に迷っていると、シオナちゃんが再び話し始めた。


「無理に返事をしなくても良いんです。ですが一つだけ質問に答えてください」


「お姉ちゃんのこと、好きですか?」


 この質問もまた俺を驚かすことはなかった。きっと聞かれると思っていたからだ。そして答えは、もう決まっている。僕はシオナちゃんに伝える。


「甘美さんはすごく不器用な人だよ。側から見てて心配になっちゃうくらいに。だけど、真っ直ぐで明るくて、みんなに等しく優しくて頑張り屋で、まるで太陽みたいな人だ。僕は、そんな甘美さんが・・・」


「好きだよ」


 するとシオナちゃんは1つ深呼吸をして言った。


「そうですよね、分かってました」


「そっか、それじゃあ帰ろっ・・・か」


 そう言って立ち上がると、シオナちゃんが抱きついてきた。


「し、シオナちゃん!?」


「今だけ、今だけはこのままにさせて下さい。少し人に見られたくない顔をしてるので」


 そう言うとシオナちゃんは泣きじゃくり始めた。僕はそんな彼女の頭を撫でながらその場に立ち尽くすことしかできなかった・・・




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料理上手の僕と食べる専の星谷さん 神在月 @kamiarizuki10

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