第11話 もしも
「ここです」
そう言われて僕がシオナちゃんに連れられてやってきたのは・・・
「カラオケ?」
カラオケだ、重々しい感じで連れてこられたことも相まって、僕は尋ねる。
「どうしてカラオケ?言っちゃ悪いかもだけどいつでも来れるんじゃない?」
「それが、そうもいかないんです」
そう前置きを置くと、シオナちゃんは説明を始めた。
曰く、自身の身体が他人より弱いせいでカラオケやアスレチックのような、はしゃぐ遊びを星谷さんから止められてるせいで中々出来ない。
とのことらしい。
それに同情した僕はシオナちゃんとカラオケへと入っていった。
・・・・・・
「最近のカラオケってこんなふうになってるんですね!AI採点って一体何なんでしょう!?」
個室に入るや否や、シオナちゃんはテンションマックスで中を物色し始めた。普段はあまり感情が表に出ないこともあり、その姿は何とも微笑ましい。
「む?どうしたんですかお兄さん。私の顔をジロジロ見て」
「え、あぁ何でも無いよ。それよりホラ、せっかくカラオケに来たんだから歌おうよ」
そう言って僕はシオナちゃんにマイクを手渡す。するとシオナちゃんは、分かりました。と意気揚々と曲を入れた。少ししてイントロが流れてシオナちゃんが歌い始めた。
「・・・っ!」
その歌声は、本当に美しかった。なんというか、まるで温かな木漏れ日が射す泉のような雰囲気があった。僕は、ただ何の声も出すこともできずに聞き惚れていた。
数分して曲が終わると、シオナちゃんが僕に尋ねてきた。
「私の歌、どうでした?」
「すっごく良かったよ!!思わず聞き込んじゃったよ!」
そう言うとシオナちゃんは照れくさそうに横を向いてしまった。
・・・・・・
2時間ほど歌って少し休んでいると、シオナちゃんが不意に話し始めた。
「お兄さん、少し良いですか?」
「うん、いいよ。どうした?」
「お兄さんは、運命って信じますか?」
予想外の質問に僕はおもわず考え込む。そしてしばらくして話し始める。
「信じてるよ、だってその方がロマンチックじゃないか」
「そうですか、じゃあ次に運命の人っていると思いますか?」
「うん」
僕がそう答えると、シオナちゃんは一瞬の間を開けて言った。
「それは、お姉ちゃんですか?」
その瞬間、僕の中で時間が止まった。何で急に星谷さんの名前がとも思った。だけど一回冷静に考えてみることにした。
星谷さんは、ありのままの僕を善しとしてくれた人だ。そして、いっつも僕を振り回して、笑顔が綺麗で料理を美味しそうに食べてくれてそれで・・・
その時、僕は気づいた。
僕は・・・星谷甘美が好きだ。
それを認知した瞬間、僕の体温が急激に上がり始めた。きっとそれ真実がどこか照れ臭かったからだろう。そして、僕はシオナちゃんの質問に答えようとした。
けれど、その瞬間部屋の電話が退出10分前を知らせた。シオナちゃんは答えることに執着することなく、出ましょう。と一言言って片付けを始めた。けれどその表情にはどこか悔しさが見えたような気がした。
・・・・・・
僕は、シオナちゃんを家まで送っていた。その途中、シオナちゃんがとある公園で足を止めた。
「どうしたの?」
そう尋ねるとシオナちゃんは優しく微笑んで言った。
「この公園、小さな時よく遊んだんです。身体が弱かったので友達と鬼ごっこ。とかはしませんでしたが楽しかったのを覚えてます」
「そっか・・・」
「もしも、私とお兄さんが幼馴染だったら、ここで一緒に遊んでたのかな?」
小声でよく聞こえなかったから聞き返そうとすると、シオナちゃんがそれを遮るように言った。
「今日はありがとうございました。ここまでで大丈夫ですので」
「あっそっか、そしたらまた今度ね」
さっきの言葉の謎を残したまま、僕とシオナちゃんは別れた・・・
しかし、そこからしばらくして事態は一変した。不意に携帯が鳴り、画面を見ると星谷さんの名前があった。
「もしもし、どうしたの星谷さん」
『あっ!もしもし!ケーキ君!今そこにシオナいる!?』
「いないけど、どうかしたの?」
すると星谷さんは、衝撃の言葉を口にした。
『シオナが帰ってこないの!!』
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