第10話 そんなの
「分かった。もう出るよ、お兄さん、今日はもうこれで解散です。お代は後がちゃんと返しますので・・・」
「あっ!待って!」
行ってしまった・・・早く追わないと、そう思って腰を上げた瞬間、シオナちゃんに色々言っていた熊ヶ谷さんに声をかけられる。
「ねえ、おにーさん」
「な、なに?」
「おにーさんって、アイツの何なの?どういう関係なの?もしかして・・・援交ってやつ?」
何を言ってるんだコイツは・・・っ!僕は声を荒げそうになるのを必死に殺して尋ねる。
「そ、そういう君は、シオナちゃんとどういう関係なの?」
すると熊ヶ谷さんは、当たり前といった風に答える。
「そんなの、上下関係に決まってるじゃん」
「は?」
「だって、アイツいっつも図書館に篭ってるし授業も休みがち、なのに・・・」
そこまで言って熊ヶ谷さんは一つ息を吐いて間を置いて・・・
「なのにアイツ!テンマくんのことフッたの!私が付き合うはずだったのに!!」
そう言う熊ヶ谷さんの表情には怒気がこもっていた。
「だから教えてやってるのよ、どっちがテンマくんに相応しいか!アイツがどれだけ間に合わない現状いるのかを!」
「黙れっ!!」
無意識だった、けれど自然とこの言葉が口から吐き出されていた。
突然の事態に熊ヶ谷さんは一瞬、唖然とした表情をしていたけど、すぐにさっきまでのそれに戻って語気を強めて言った。
「何よ急に!文句でもあるわけ!?」
「あるよ!だって君のやってる事はただの八つ当たりじゃないか!自分が望んだものが手に入らなかったからってシオナちゃんに当たるなんて・・・」
「そんな事、絶対に許されちゃいけないよ!」
僕の言葉に、熊ヶ谷さんは何も言い返さずただ怒りを噛み締めるように拳を握り僕を睨みつけていた。
僕は立ち上がってそんな彼女に言った。
「そういうことだから、それじゃあ」
そして、僕は手早く会計を済ませるとシオナちゃんの捜索を始めた。
・・・・・・
私は、1人で誰も並んでいないバス停でさっきの事を思い返していた。
「お兄さんに、申し訳ないことしちゃった。嫌われたかな・・・」
いや、嫌われてはいないはず。少なくともあの人はそんな簡単に人を嫌う人では無いことは私自身がよく知っている。だけど・・・
「お姉ちゃんのことで勝手にお節介焼いて、あげく自分で自分の恋路を邪魔するなんて、やっぱり私ってどうしようもないな・・・」
そんな風に待っていると、バスがやってきた。バスの扉が開いて乗り込もうとした瞬間、誰かに腕を掴まれる。
「きゃっ・・・!?」
驚いて後ろを向くとそこには・・・
「お兄・・・さん?」
お兄さん、啓紀さんが立っていました。お兄さんは私の顔を見てホッと胸を撫で下ろすと、優しい口調で話し始めました。
「良かった、もう少しで間に合わないところだった」
「な、何でわざわざ来たんですか?」
「何でって・・・」
そこまで話すとお兄さんは、私に目線の高さを合わせて言いました。
「今日は、シオナちゃんと出掛けたんだ。こんなすぐお別れはもったいないよ」
そう言ってお兄さんはニコリと、柔らかな春の日差しのような笑顔を私に向けました。
それを見て、私の中で覚悟が決まりました。
「そうですね、それでは1つ私の行きたい所に着いてきてくれますか?」
こうなれば、お姉ちゃんのことは後回しだ。まずは私の感情を清算したい!
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