第9話 お兄さんって・・

「ふう、急に暑くなってきたな・・・」


 茹だるほどの暑さの土曜日、僕は1人駅前で立っていた。というのも・・・


『今週も疲れたなぁ、明日はゆっくり休むとしますか!っと、携帯が・・・今出ますよー』


『もしもし?』


『あっ、お疲れ様です。お兄さん、今少しだけお時間大丈夫ですか?』


『シオナちゃんか、うん。あるけど・・・何か急用?』


『えっと、そうですね。単刀直入に言うと、明日私と出掛けませんか!?』


『・・・え?』


 ・・・ということだ。でもまあ、せっかくの土曜日だ。ダラダラ過ごすにはもったいない。


 すると、不意に横から声をかけられる。


「お待たせしましたっ!すいません、おそくなってしまって・・・」


 声をする方を向くと、そこにはシオナちゃんが少し息を切らしながら膝に手をついていた。


「ううん、全然待ってないよ。シオナちゃんもそんなに急がなくても良かったのに」


「いえ、私から誘っておいて・・・待たせるのが嫌だった、だけですので・・・」


 うーん、これは結構疲れてるっぽいな・・・


「と、とりあえずそこの喫茶店で少し休憩しようか」


 ・・・・・・


「ふぅ、改めてすいません。お待たせしてしまって」


「そのことはもう良いってば、それより今日は何で僕のこと呼んだの?」


 僕がそう尋ねると、シオナちゃんは少し考えるように俯いた後、僕に尋ねてきた。


「お兄さんって・・・お姉ちゃんのことどう思ってますか?」


 突然の質問に僕は一瞬、脳の処理が追いつかなくなった。けれど、どうにか言葉を口にする。


「そ、それは随分と急だね・・・星谷さ、甘美さんに何かあったの?」


 すると、シオナちゃんは深刻な面持ちで言った。


「最近、というよりお兄さんと出掛けた日から何だか様子がおかしいんです」


「いつもより食欲は少ないし、上の空の時間も増えたし・・・」


 僕はその答えに、そうなんだと1つ返事をして考える。


 それってあの日の最後のアレのせいだよなきっと!?まさか星谷さん、本当に僕のことを?いやでも待て、あのギャルの星谷さんのことだ。まさかこんな僕に恋愛感情なんて・・・


 と、とりあえず勇み足は厳禁だ。焦らずに行こう。


「ちなみに甘美さんに直接聞いてみたりはしたの?」


 僕のその質問に、シオナちゃんは少し困った表情をしながら答える。


「うーん、何度か聞いては見たんですけど、聞くたびに顔を真っ赤にして、知らない!の一点張りでして・・・」


「そっか・・・」


 うーん、僕のせいだとは思うけど、感情の確信を持てないしそんなはずもないし・・・困ったものだ。


 そんな風に考えていると、見知らぬ声が聞こえてきた。


「あれ?汐那じゃん?」


 見るとそこには、ベリーショートで気が強そうな中学生らしき女の子が立っていた。


「あっ、熊ヶ谷さん・・・」


 熊ヶ谷と呼ばれた女の子は、シオナちゃんの言葉には耳も傾けず言った。


「何でお前みたいな奴がアーシのお気に入りのお店にいるわけ?ここの品が落ちるからこないでよね!」


 その余りの言い方に僕は憤慨して言い返そうとした瞬間、シオナちゃんがすっと静かに立ち上がって言った。


「分かった。もう出るよ、お兄さん、今日はもうこれで解散です。お代は後がちゃんと返しますので・・・」


 そう言うとそれ以上は何も言わずに出ていってしまった・・・

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