第7話 キミだから

「いよいよ明日か・・・星谷さん、一体何する気なんだろう?」


 あの日、シオナちゃんと話してから僕は星谷さんに謝罪の連絡をした。けど向こうは、


 『その言葉は、土曜まで取っておいて』


 と、どうとも言えない返事で、料理についても何も聞かれも言われてもしていない。


「気になる!正直不安で眠れる気がしない!」


 そんなこと言いながら頭を掻いていると、不意に携帯が震え出した。急いで携帯を見ると、星谷さんからの電話だ。僕は慌てるように電話に出る。


「も、もしもし!」


『あっ!ケイキ君出てくれた♪良かった、出てくれないかと思った』


「そ、そんなことしないよ。でも、一体なんの用事?」


『えっと・・・実は明日の事考えてたら眠れなくなっちゃって』


 そう言うと星谷さんは、電話越しにニシシと僕に笑った。


「僕もだよ、ねえ星谷さん。明日、一体全体何をするの?」


『んっと、それはね・・・秘密』


 僕はその言葉に思わずずっこけてしまった。まあ、言ってくれない気はしてたけど・・・


『でも、これだけは約束させて』


『明日、ウチは絶対にケイキ君のことを喜ばせる!そんでこれからもずっと悲しませたりなんかしない』


 その、彼女の強い言葉にある温かさと優しさに僕は思わず呆けてしまった。けれどすぐにハッとして答える。


「分かったよ、ありがとう。何だか少し楽になったよ」


『でしょ?流石ウチだよね♪』


「自分で言っちゃうとカッコつかないよ?」


『シシシっ!そうかも♪』


 すると星谷さんは、うーんと伸びた声を出して言った。


『何だかケイキくんと話してたら眠くなってきちゃった』


「そっか、それじゃあ星谷さん。おやすみ、また明日」


『うん、また明日ね』


 僕は通話を閉じる。


 そしてベランダに出て考える。


 星谷さんはあの時の浅香さんとは違うんだ。きっと、きっと・・・


 ・・・・・・


「結局、寝不足でここに来たのか・・・」


 昨日あの後、今回のことを考えていたら止まらなくなってしまった僕は、あまり良い睡眠を取れなかった。


「けど、そんな理由で断ることは絶対無いんだけどね。・・・っと、もうこんな時間か」


 そして僕は家のチャイムを鳴らす。少しして扉が開くと、そこにはシオナちゃんがいた。


「あっ、お兄さん。来てくれたんですね。嬉しいです」


「うん、でも緊張というか不安というか、そういうのはまだあるけどね」


「そう、なんですね・・・」


 そう言ってシオナちゃんは少し目を伏せた。けれどすぐに僕の方を向いて言った。


「でも!来てくれただけで嬉しいです。ささ、早く中に」


 そう言われ僕は中へと歩を進めシオナちゃんの後について行った。


「それじゃあここで少し待っていましょうか」


 リビングに着いて椅子に座ると、シオナちゃんがそう僕に言ってきた。それに対して僕は1つ質問をした。


「星谷さん・・・甘美さんはどこにいるの?」


「直に分かります。なのでここで待っていましょう」


 はぐらかされてしまった・・・


 そのまま何もせず待っていると、シオナちゃんの携帯が鳴った。それを見るとシオナちゃんは、


「それじゃあ、もう少しだけここで待っていてください」


 そう言って部屋を出ていってしまった。そして数分後、シオナちゃんが何かが盛られたお皿を運んできた。


「これは、サラダ・・・?」


 シオナちゃんはそれを机に置くと、再び席についた。


「えっ?こ、これって一体・・・」


 そう言い終えるが早いか否かのタイミングで、星谷さんが入ってきた。


「おまたせっ!やっと完成したよー!はい♪どーぞ」


 そう言って僕の前に置かれたのは・・・


「オムライス?これ、星谷さんが?」


 その言葉に星谷さんが目を輝かせて言った。


「そう!ウチ、考えたんだ。ケーキ君が料理のせいで他人と関わらないなら、ウチも同じ趣味を持てばいいんだって!」


「そう思って頑張ったんだけど・・・やっぱり料理って難しいんだね。全然上手くできなかったよ♪でも気持ちは沢山込めたから!だから食べてみて、ね?」


 そう言うと星谷さんはオムライスの乗ったお皿を少し僕の方に押した。僕は手元にあったスプーン使ってそれを口にした。


「どう?ケーキ君、美味しい?」


 僕はそれを何度も咀嚼して、飲み込んで言った。


「少し塩味が強いかな、きっとチキンライスのケチャップの量が多かったんだね。あと、たまごの焼きにムラがあるかも」


 それを聞いていた星谷さんは何だか複雑そうな表情をしていた。


「でも・・・」


 そこまで言って僕は言葉を詰まらせてしまった。でもそれは、頭が真っ白になった訳でも言いたく無かった訳でも無かった。ただこの言葉を言ってしまうと、僕の中で何かが溢れてしまうと知っていたからだ。


 でも僕は、覚悟を決めて言った。


「でも・・・すごく心が暖かくなって・・・美味しいっ・・・」


 予想通りこの言葉を口にした瞬間、僕は涙を抑えられなかった。すると星谷さんは、僕の頭を優しく撫でながら言った。


「ウチの気持ち、伝わった?」


「うん、ありがとう・・・ありがとう・・・」


 この星谷さんの手の温もりと心の温もりを、いつまでも感じていたい。僕はこの時、その事しか考えられなかった・・・

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