第6話 弱い僕を
「分かったよ、じゃあ話すよ。僕の、つまらない昔話を・・・」
これは、僕が中学生の時の話。僕は、信じてもらえないかも知れないけどクラスで中心になる事が多かったんだ。
でも、そんな僕にも1つの隠し事があったんだ。それは料理が好きな事。料理は女の人の趣味、もし男の僕が好きだなんて言ったらバカにされる。そう思ってた・・・
僕は、この先もこの趣味を隠しながら明るい人間を演じ続ける。そんな事を漠然と考えていたんだけど、ある日変化が起こった。
『ケイキ君!好きです!アタシと付き合ってよ!』
告白されたんだ。相手の名前は浅野莉里、今でもはっきり覚えてる。
告白なんて経験が無かった僕は、嬉しくなってその日の内にOKして付き合い始めたんだ。
「だけど、それが全ての始まりだったんだよ」
その日から僕と浅野さんは毎日飽きるまで話をしてた。学校でも、家でも。側から見たらきっとお似合いのカップルだったと思うよ。だけど、沢山話してるうちに思ったんだ。
「このまま隠し事をしたままでいいのかって」
だから僕は付き合って何ヶ月か経って家に招いたんだ。そして、その時に僕のこの趣味を告白しようって・・・
「でも、それが間違いだった・・・」
家に着いて少しして、浅野さんは僕に、何の用事?と尋ねたんだ。
それに対して僕はクッキーを手渡したんだ。もちろん、僕の手作りの。浅野さんはそれを受け取ると僕に言った。
『これ、どうしたの?プレゼント?』
それに対してぼくは答えた。
『うん、莉里のために作ったんだ』
すると浅野さんは驚いた顔をした後に複雑そうな表情で言った。
『そ、そう。ケイキ君、料理するんだ・・・』
『するよ、僕料理が好きだからさ』
僕がそう言うと、浅野さんは何やらブツブツ呟くとキッと僕を睨んで言ったんだ。
『そんなのアタシの知ってるケイキ君じゃないよ!!』
そしてそのまま帰ってしまったんだ。余計な事を言ってしまったって気持ちもあったけど、その時は自分を理解してくれていない人と付き合わなくてすんだ。なんて気楽に思ってたんだ。
「だけど、自分が如何に楽観的であるか、次の日思い知ることになるんだ・・・」
次の日学校に行くと、皆んなの目線がやけに冷たかったんだ。普段は真っ先に駆け寄ってくれる友達も、その日は遠巻きで僕を見つめていた。その日から僕は気づいたんだ。ただ1人で料理を作り続けるか、料理のことをひた隠しにして多くの友達に恵まれるか、その2択しか無いんだっ、てね。
「以上が僕の昔話、どう?大した話じゃ無かったでしょ?」
ぼくがそうシオナちゃんに尋ねると、フルフルと首を横に振ってから答える。
「いえ、そんなことありません。でも、それとお姉ちゃんになんの関係が?」
「その日、浅野さんを見かけたんだ。そしたらその時のことを思い出して・・・それで思わず星谷さんの手を払ってしまって・・・」
その言葉にシオナちゃんは、やっぱりといった表情を浮かべ言った。
「そうだったんですね・・・だとしたら」
「お姉ちゃんのことは全く気にしなくていいです。あの人、メンタルは凄く強いので」
僕はその、シオナちゃんの星谷さんに対する褒めてるのか馬鹿にしてるのか分からないその言葉に、少し笑ってしまった。
「あっ、やっと笑ってくれました」
「え、僕そんなに暗い顔してたかな?」
「はい、ずっと。でも、お兄さんの笑顔見れて良かったです。私、お兄さんの笑顔好きなので」
僕はそんな彼女の優しい微笑みに思わず目を逸らしてしまった。すると彼女は・・・
「お兄さん?もしかして、照れ臭かったんですか?」
「な、何でもないよっ!」
「フフッ、分かりました。今日のところは詮索しません。それじゃあ土曜、お待ちしてます」
そう言うとシオナちゃんは、トレイを持って席を後にした・・・
1人取り残された僕は1人、星谷さん姉妹のことを信じる決意を固めていた・・・
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