第4話 買い物とトラウマ

「ここ、今まで来たこと無かったんですけど、案外食品売り場も広いんですね」


 僕は今、星谷さんと買い物に来ている。聞くところにによると今回の目的は・・・


「当面の料理の材料の買い出し!ついでにケーキ君にここの紹介、かな♪」


 と、いうことらしい。別にここを知りたいわけでは無いのだけど・・・温情を無碍には出来ない。


「分かりました、じゃあ買い出しは最後にするとして、とりあえず散策にしましょう」


「おっ!いいよケーキ君、ノッてきたじゃん♪行き先は私に任せて!」


 そう言うと星谷さんは、僕の手を取って歩き始めた。僕はその彼女の手を感触に、鼓動が速鳴るのを感じていた。


「まずはあそこで間食しよ♪」


 そう言いながら星谷さんが指さしたのは、クレープ屋さんだった。クレープ、親の作るミルクレープしか食べたことないや。


 あれが果たしてクレープと言えるのかは知らないけど・・・


「いいですよ、せっかくの機会だし食べましょう」


「やった♪それじゃあケーキ君は何食べる?」


 そう言われ僕は商品の書かれた看板を見る。色々と種類があるけど・・・まあ無難な物を選ぶに越したことはないだろう。


「それじゃあ僕はチョコバナナで」


「おっけー、それじゃあ注文しちゃうね」


 すると、星谷さんは店員さんの前に行くと注文を始めた。知り合いらしく談笑しているのがコチラからでも分かった。


 クレープが出来上がるまでの間、僕は星谷さんに尋ねた。


「星谷さんは、何を頼んだの?」


「んーと、カスタードバナナのホイップ多め」


「え、そんなこと出来るんですか!?」


「普通は出来ないよ、でもウチ、ここの店員さんと仲良いからさ」


 なるほど、言うなれば裏メニューみたいなものか・・・ってか星谷さんどんだけここに来てるんだ?


「あっ!クレープ出来たってさ、取りいこ♪」


 そしてクレープを受け取るとき、店員さんが僕に尋ねた。


「君、甘美さんのカレシ?」


「えっ!?あっ、はっ!?」


 唐突の質問に、僕は思わず困惑してしまった。しかし、それを他所に店員さんは話を続ける。


「いやー、まさかあの甘美さんにカレシかぁ。予想外のこともあるもんだよ・・・」


 そんな風に好き勝手話す店員さんの話を、星谷さんが強引に割って止める。


「わーわー!べ、別にケーキ君はそんな人じゃ無いよ!?」


「へえ、ケーキ君って言うんだ。よろしくね」


「あっ、よろしくお願いします・・・」


「ケーキ君も反応しなくいいからっ!ほら、早く席行って食べよ?」


 すると、星谷さんは僕の背中をズルズルと押して席へと運んでいった・・・


 ・・・・・・


「クレープ、美味しかったっしょ?」


「うん、カロリーが少し気になるけど、でも良かったよ」


「大丈夫だよ!カロリーは幸せで消化できるから!」


 つまり何も大丈夫じゃ無いのでは?


「まあ、僕は星谷さんの体型がどうなろうが関係ないですけど」


「むぅ、ケーキ君?それは一体全体どういうこと?」


「普段の国語の授業活かして答えてみてください」


 その言葉に星谷さんは、首を傾げ唸ると手を叩いて言った。


「分かんないっ!」


 何かもう、色々とバカで助かった・・・


「まあ、とりあえず気を取り直して買い物行きましょうか」


「むう、そうだね・・・」


 そう言う星谷さんは、どこか不満げだ。


「何買います?調味料は今後のために・・・ハッ!?」


 そんな何気ないやり取りの途中、僕は思わず言葉と足を止める。


「どしたのケーキ君?場所分からないの?」


「・・・ハァッ・・・ハァッ」


「・・・ケーキ君?」


 僕はとある女子高生グループの1人に、目が釘付けになっていた。黒髪のショートヘアで少し鋭い目をした女。その女に僕は、嫌というほどの見覚えがある。浅野莉里あさのりり、そいつは僕の元カノで、僕に人間の怖さを突きつけ、僕が1で料理をするようになった原因の人物。


 何で、何で僕は忘れてたんだ・・・あんなに辛くて暗い思い出を、いや、蓋をしてたんだ。あの思い出したくもない記憶に蓋をして、最初から自分が1人で料理するのが好きな内気な人間だと思い込んでいたんだ・・・


「ねえ、ケーキ君どうしたの?ホントに変。ねえって・・・キャッ!?」


 僕は無意識に、星谷さんが差し出した手を叩き払っていた。


 そして、僕はそこで我に返った。僕は、僕は彼女に一体なんて事を・・・っ


「ねえ、ケーキ君・・・?」


「・・・ごめん、今日はもう帰るよ。また、今度」


「ねえ!待ってよ!ねえ!ケーキ君!」

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