第3話 奇妙な関係
あの日の僕と星谷さんとの間に起きた奇妙な出来事から数日が経った。あの時の出来事が嘘のようにここ数日は平凡なものだった。
しかし、その平凡は不意に変わった。
ある日、僕の携帯に一件の通知が入った。星谷さんからだった。
ほちたに☆
<ケーキ君、今日の放課後
空いてる?
啓紀
空いてるけど、どうかし>
たの?
ほちたに☆
<今日料理の練習するから
手伝って🙏
唐突な星谷さんからの連絡の要件は、料理の手伝いだったようだ。一度請け負ってしまったら二度も変わらない。僕は2つ返事で答える。
啓紀
いいよ>
ほちたに☆
<マジ!?やったー!それ
じゃあ授業終わったら校
門前しゅーごー!
啓紀
りょーかい>
となると今日は久々に誰かと料理を作るんだな・・・そう思うと、何だか心が晴れやかになった気がした。
・・・・・・
「ハァッ・・・ハァッ・・・」
掃除がかなり長引いてしまった!きっと星谷さんを待たせているに違いない。
そう思いながら出来る限りの速さで校門前に着くと、星谷さんが僕の方を向いて声をかけた。
「お疲れケーキ、掃除長引いた感じ?」
星谷さんの言葉の感じから怒ってるとかそういうことは無さそうな感じだった。
「うん、掃除中ふざけてた奴が先生にしっかり目に怒られてて」
「そうなんだ、でも・・・」
「でも?」
僕がそう聞き返すと、星谷さんはビシッ!と僕の前に人差し指を立てて言った。
「そういう時は早めに連絡して!」
「ご、ごめんなさい・・・」
「ホントだよ、待ってる間ホントに・・・」ハッ!
「ホントに・・・何ですか?」
「な、何でもない!とにかくっ!次からは遅れそうになったら連絡すること!いい!?」
その星谷さんの言葉の強さに少し押されながら僕は答える。
「分かった、次からは気をつけます」
すると星谷さんは、ウムと頷くとぶっきらぼうに歩き始めた。
・・・・・・
「ところで何ですけど」
と、僕は目的地に向かう道中、星谷さんに一つ質問をする。
「星谷さんが料理を上手くなりたい理由って結局は何なんですか?」
その質問に星谷さんは思い出したように答える。
「ああ、そういえば言って無かったわね。それはシオナのため」
「シオナちゃんの?」
「そ、シオナってああ見えて昔から体が弱くってさ、昔から私が看病してたんだ」
「その時は何となく自分が出来そうなことだけをやってたんだけど、そろそろその出来ることの幅広げてかなないとなって思って」
なるほど、シオナちゃんにためにか・・・
じゃあこの前シオナちゃんが手伝いに来て星谷さんが手伝いに来なかったのはマズくね!?
でもそんなこと言うのは流石に野暮か・・・
「そっか、じゃあ僕も星谷さんが料理上手になれるよう頑張りますね!」
「ところで・・・」
その声に僕は何事だろうかと星谷さんの方を向く。するとその距離の近さに思わずたじろいでしまった。
「ど、どうしたの星谷さん?」
「それ!それだよそれ!」
それってどれ!?訳が分からず、僕は思わず星谷さんから目を逸らす。
すると星谷さんはわざわざ僕の視界に入り込んできた。
「ムゥ〜・・・」
このままいっても平行線だと思い、僕は正直に答える。
「・・・すいません、それの意味がわかりません」
僕がそう答えると、星谷さんはわざとらしくため息を吐いて言った。
「じゃあ、ヒントね。ケーキ君はシオナのこと何て呼んでる?」
「シオナちゃん?シオナちゃんはシオナちゃんだよ」
そして眉間に皺を寄せてもう一つ尋ねてきた。
「それじゃあウチのことは?」
「星谷さんかな?」
すると星谷さんは少し頬を膨らませ言った。
「・・・もう分かったでしょ?」
「もしかして、名前で呼んで欲しいの?」
僕のその言葉に、星谷さんは顔が熟れたトマトみたいに真っ赤になった。
「そ、そそそそ!そういう訳じゃなくて!」
「・・・ただ星谷だとシオナもウチもだから、別の呼び方して欲しいなって」
何だそういうことか、だったら簡単だ。
「じゃあ次からは名前で呼びますよ」
「うん、それじゃあ今から呼んでみて」
「わかりました、あま・・・」
「?どうしたのケーキ君」
何故だろう、星谷さんの名前を呼ぼうとすると、胸の奥がつかえる感覚がする。そのせいで中々呼べない・・・っ!
「・・・・・」ジーーーーーーッ
こ、ここはどうにか誤魔化さないと!
「ほ、ほら!もう目的地に着きましたよ!?早く中に入りましょう!」
そう言うと僕はスーパーの中に足早に入って行った。
「あっ!?ちょっと待ってよケーキ君!」
「・・・もう、ケーキのバカ」ボソッ
何か星谷さんが呟いていた気がするが、僕にはよく聞き取れなかった。
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