第2話 汐那ちゃんとナポリタン

「たっだいまーっ!!」


「お、おじゃまします・・・」


 僕は星谷さんに半ば強引に家に連れて行かれた。正直言って僕は異性の家に上がるのが初めてだから、すごく緊張している。


「シオナー!お客さん連れてきたよー!」


 部屋の扉を開けると同時に星谷さんがそう声を上げる。


 見ると、そこには1人の女の子が座っていた。


 すると、その子は僕を見るとペコリとお辞儀をして言った。


「こんにちは、アマミお姉ちゃんの妹の汐那しおなです。お姉ちゃんがいつもお世話になってます」


 その言葉に僕は思わず絶句してしまった。この子、なんて丁寧な子なんだっ!?


「あのぉ・・・お兄さん?」


「あっ!えと、僕は星谷さんの同級生の佐藤啓紀です」


 すると、シオナちゃんが僕に尋ねる。


「ケイキさんは、どうして来たんですか?」


 その質問を答えようとしたところに星谷さんが割って入る。


「ケーキ君!台所こっちだよ!」


 その言葉に連れられて僕は星谷さんの家に台所に足を運ぶ。料理をしていないからか他の部屋よりも綺麗な印象だった。


「それで、僕は何を作ればいいんですか?」


 すると、星谷さんは僕から目線を逸らした。僕は問い詰めるように星谷さんに尋ねる。


「もしかして・・・無計画ですか?」


「えっ!?いや、その・・・」


 そこまで言うと星谷さんは手をばっと前に出して高らかに言う。


「そう!!試練よ試練!限られた食材で料理を作れるかの試練よ!」


 なんじゃそりゃ・・・でもまあ確かに面白い試みだ。


「分かりました、やれるだけやってみます」


 すると星谷さんは少し驚いた表情をして言った。


「まじっ!?できんの!?」


「出来るかは分かんないですけど、今から買い物も面倒なので」


「それもそうだね・・・それじゃあケーキ君、お願いね」


 そう言うと星谷さんは台所から出ていった。


「よし、それじゃあやってみますか!」


 ・・・・・・


 とりあえず、ある食材を確認しよう。そう思って僕は冷蔵庫を開ける。


「やっぱり・・・あんまり無いな」


 料理に使えそうなのはウインナーと少ししなびた野菜、あと強いて言うなら牛乳だろうか?


「調味料は意外と揃ってるし・・・そうだっ!」


 その瞬間台所の扉が開いた。見るとそこにはシオナちゃんがいた。


「えっと、どうしたの?」


「お姉ちゃんから大体の話は聞きました。料理作ってくれるんですよね?できることがあれば手伝います」


 なんていい子なんだっ!姉にも少しは見習ってほしい・・・


「ありがとう。そしたらパスタ茹でてくれるかな?」


「分かりました」


 そう言うとシオナちゃんは作業にとりかかる。


 それを横目に僕はウインナーとピーマン、玉ねぎを切り始める。


「ナポリタン、ですか?」


「うん、正解。この少ない手札で作れるのはナポリタンかなって」


「なるほど、参考になります」


「妹さんは料理好きなの?」


「いえ、それほどでも無いですけど誰かは作れた方がいいかと思いまして」


 やっぱりこの子偉すぎるでしょ!


「あと、妹って呼ばないでください」


「えっ?」


「ちゃんと名前で呼んでください」


 確かに、これは失礼だった。


「分かった、じゃあ改めてよろしくね。シオナちゃん」


「・・・はい」


 あれ?なんで今そっぽ向かれたんだ?


 ・・・・・・


「最後に塩と胡椒で味を整えてっと・・・よしっ!完成!」


「すごい、あっという間に出来た・・・お兄さん本当に料理得意なんですね」


「まあね、でもナポリタンは久しぶりに作ったよ」


「それでこのクオリティ・・・尊敬します」


 ここまで褒められるのは初めてだ。流石に嬉しくなる・・・


「それじゃあ私、お皿取りますね」


 そう言うとシオナちゃんは、上の所にある皿を背伸びして取ろうとする。見てるコッチがヒヤヒヤしてしまう。ああっ!そんなに一気に取ろうとすると・・・


「危ないっ!!」


「キャッ!?」


 皿が不安定に揺れてるのを見た僕は、咄嗟にシオナちゃんの後ろに回って落ちそうになるのを防ぐ。


「危なかった・・・シオナちゃんは大丈夫だった?」


「・・・・・」


「シオナちゃん?おーい」


 その言葉に我に帰ったのか慌てながら答える。


「えっ!?あっはい!そ、それじゃあお皿ここに置いておきますね!それじゃあ私はこれで!」


 そう言って皿を机に置くと、シオナちゃんは台所から出ていってしまった・・・


「なんだったんだ?まあ、とりあえず盛り付けるか」


 ・・・バタン


「・・・ふぅ」


 ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!


 何なのあのお兄さんっ!?今のは反則だよ!このままじゃあ!


「このままじゃあ・・・」


 好きになっちゃうよ・・・


 ・・・・・・


「出来上がりましたよー」


 僕がそう言いながら料理を部屋へと運ぶ。


「あっ!お疲れさまー!ナポリタンだー!私、子供の時から好きなんだよね」


 それなら採点にはもってこいだろう。


「あれっ?二人分しか作ってないの?」


「二束しかなかったので・・・まあ二人で食べてください。僕は帰りにおにぎりでも買って帰りますよ」


「あっ、それなら私の・・・」


「じゃあウチの半分こしようよ!」


 そう、星谷さんがシオナちゃんの言葉を遮って答える。


「いいんですか?申し訳ないですよ」


「いいよいいよ!ウチ、オムライスも食べてるから!」


 それも確かにそうか。そこで僕は料理をシオナちゃんと星谷さんの前に置いて、星谷さんの隣の席に座る。


「えっ!ウチの隣に座るの?」


「あっ、嫌でしたか?」


「えっと・・・嫌では無いんだけど」


 そこまで言うと、星谷さんは首をフルフルと振って答える。


「やっぱり何でも無い!さっ、早く食べよ?」


 星谷さんは、そう言いながら急かすように手を合わせる。僕もそれにつられる様に手を合わせる。


「それじゃあ、いただきまーす!」


 そしてそのままパスタをフォークで巻き口へと運ぶ。


「うーんっ!!おいしーい!」


 そう言ってオムライスを食べた時同様に目を輝かせる。


 にしても、星谷さんは美味しそうにご飯を食べる。きっとこれだけ美味しそうに食べられれば食材たちも浮かばれるだろう・・・


「ん?どしたのケーキ君?ウチの顔になんかついてる?」


「え、いや・・・何でも」


「そっ、それじゃあケーキ君、ほらっあーん」


「あ、あーん」


 そして僕は巻かれたナポリタンを口に加える。


 うん、いい感じだ・・・ん?今実はとんでもないことをしたのでは?


 そう思い星谷さんの方を向くと星谷さんはびっくりと照れとが入り混じった顔をしていた。


「ケーキ君、意外とそういうの平気なんだね・・・」


「い、いや!全然そんなことない!ただ、あんな自然に出されたから・・・」


「・・・このスケベ」


 ダメだ・・・取り付く島も無い。


 結局、微妙な空気のまま食事は終了した・・・


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