料理上手の僕と食べる専の星谷さん

神在月

第1話 僕で良ければ

 料理って言うのは不思議だ。同じ食材を使って同じ料理を作っても人によって少しずつ変わってしまう。僕はそんな料理が大好きだ。


「武内先生、今日も家庭科室の鍵を借りても良いですか?」


「おお佐藤か、実は今日は先客がいてな。残念ながら貸し出すことは出来ない」


「そう、ですか・・・」


 落ち込んだ僕を見て、武内先生が声をかける。


「そんな顔してくれるな。でも佐藤の家はケーキ屋だろ?調理する場所もあるだろうに」


「ええ、調理する場所はあるんですが・・・」


「ですが・・・どうしたんだ?」


「僕の家、いつもケーキの甘い匂いがするので何を食べても甘い気がするんです」


 すると先生は納得したような表情を浮かべる。


「そうか、それは悪いこと聞いたな。また明日来てくれ。他人には貸さないでおいておく」


「分かりました。さようなら」


 使われてしまっているなら仕方ない。大人しく帰ろう。


 そうして玄関へ向かう途中、何となく家庭科室の前を通ることにした。すると、何やら焦げ臭い匂いがした。


「何を作ってるんだろう?」


 そうして家庭科室を覗くと、1人の女の人がいた。それだけなら問題はなかったが、その人の前に黒煙が上がっていた。


 これはいけない、美味しく出来上がらないどころか場合によっては火事の危険もある。僕は無意識にその部屋に入っていた。


「な、何してるんですか!?」


「えっ!?誰!?って、アンタは確か同じクラスの・・・」


「あっ、えっと、佐藤です。佐藤啓紀さとうけいき


 するとその人は手をポンと叩いて言った。


「あー!ケーキ君だ!ウチのこと知ってる?同じクラス!」


「あ、えっと・・・」


 まじで分からん!こんな人クラスにいたか?いや、待てよ。この特徴的なロングの金髪にこの口調の軽さ・・・さては、


「星谷・・・さん?」


「正解っ!星谷甘美ほしたにあまみ!よく知ってたね?」


「まあ、一応はクラスメイトですし。でも何で星谷さんはここに?」


 すると、星谷さんは自分が質問される側だと思っていなかったのか、キョトンと顔をし、話し始める。


「ウチ?ウチは勿論料理の練習中だよ!」


「そうだったんですね・・・そしてそれが料理の成果ってことですか?」


 僕がそう言って後ろの焦げた塊を指差すと、星谷さんはそれを隠すような姿勢をとりながら僕に訴えかける。


「まっ!まだ練習中だから!?別に問題無いっていうか!?むしろ伸びしろっていうか!?」


「つまり、失敗したってことですよね」


「うぐぅ!?」


 そう音を出すと星谷さんはヘタリと床に手をつく。この後も料理するならちゃんと手を洗って欲しい所だ・・・


「・・・ってみなさいよ」


「え?」


「そんだけ言うんだったらアンタが作ってみなさいよ!?」


 なるほど、それだけ言うならそれ相応なものを作ってみろと・・・それは何ともまぁ好都合なことだ。使える予定のない家庭科室で料理が出来るのだから。


「僕で良ければいいですよ、何を作ればいいんですか?」


「えっ?ケーキ君、料理できんの?」


「難しすぎないものなら大概は、それより星谷さんは何を作ってたんです?」


 その言葉に星谷さんが固まる。きっと答えてくれないんだろう。仕方ない、状況証拠から推測するか・・・


 まず前提として、フライパンを使ってるから炒めたり焼いたりするモノだろう。そして三角コーナーにはたまごの殻が入っている。それに机にはケチャップ・・・なるほど、じゃあアレがあれば決まりなんだけど・・・あった!


 その僕の視線の先にはお椀に盛られたご飯があった。大体の予想がついた僕は星谷さんに伝える。


「もしかして、オムライス作ろうとしてました?」


 その言葉に星谷さんが目を丸くして答える。


「えっ!?すご!何で分かったの?」


「まぁ、状況判断ってやつかな・・・」


 星谷さんはしばらく目を輝かせていたけど、ハッと我に戻ると1つ咳払いをして言った。


「と、とりあえず!あんなに言ってくれたんだから中途半端なの作ったら怒るわよ!」


 やっぱり作るんですね・・・


「分かりましたよ」


 それじゃあ、いっちょやったりますか!


 ・・・・・・


「よしっ!完成!」


 何か今日はいつもよりもいい感じにできたな。チキンライスも変にベチャつかなかったし。


「ふっ、ふーん。案外手際はいいじゃん?でも料理は見た目じゃなくて味だから!」


 そう言うと星谷さんはぶっきらぼうにオムライスを口に運ぶ。どうだ・・・?


「んん!オイシー!!」


「たまごはフワフワでご飯も味付けがちょうどいいー!」


 星谷さんは僕の手を取って話を続ける。


「これすごい美味しい!毎日でも食べたい!」


 僕はその星谷さんの真っ直ぐな瞳と言葉に思わず目を逸らしてしまった。


「どうしたの、ケーキ君?」


「いえ、なんでもないです・・・」


「ふーん、変なの」


 ・・・・・・


「ところで何ですけど、何で星谷さんは料理なんかしてたんですか?」


 僕は使った皿を洗いながら星谷さんに尋ねる。するも星谷さんは目を上にやって考える。


「それは、話せば長くなるんだけど・・・あっそうだ!」


 そう言うと不意に星谷さんが僕に目線を合わせる。そして言った。


「ねえケーキ君!この後ウチの家来てよ!」


「へっ!?はっ!?」


 急に家に来いって一体どういうことだ!?


「そしたら大体のこと、説明出来るからさ!」


 そう目を輝かせる星谷さんの瞳に釘付けになりながら僕は思った。


 もしかしたら僕は面倒なことに足を突っ込んでしまったのかもしれない・・・

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