1 私の恋は猛スピードだから

 目が覚めると、明るい光が差し込んでいた。

 天使がお迎えに来たのか──?

 そう疑ってしまうくらい、イヤガラセのように強烈な光がベッドを照らしている。

 カーテンがない部屋は、朝になるとまぶしくて仕方がない。

 この部屋に元からついていたカーテンは上品なベージュで、僕は大変気に入らなかった。

 贅沢は言わないが、カーテンの色だけはどうしても譲れない。

 貯金をはたいて注文した濃いブラウンのカーテンは、まだ届かない。

 ただ、真新しいベッドの寝心地がいいので、朝陽に負けずに眠れそうだ。

 ここ最近で得た学びの一つは、〝寝具には金をかけろ〟だ。

 人生の三分の一は睡眠らしいし、真っ当な意見だろう。

 朝陽から目を背けて、この寝心地のいいベッドでいつまでもゴロゴロしていたい。

「おはよう」

「…………」

「おはよう、よく寝てたね」

「……………………」

 ベッドの横に椅子があり、そこにお姉さんが座っていた。

 色素の薄いロングヘア、ほっそりした身体、肩に羽織ったショールとワンピース。

 朝陽を浴びているお姉さんは、まるで後光が差しているかのような──

「ちゃんと挨拶はしようよ。親しい仲にも礼儀は必要だから」

「……おはようございます。僕、あなたと親しいんでしたっけ?」

「そりゃそうでしょ。だって──」

 すうっ、とお姉さんがベッドの枕元に顔を寄せてくる。

「君はわたしと結婚したんだから」


「…………っ!」

 ぱっ、と目を開けた。

 夢だと気づいて強制的に脳を起動させたような──自分にそんな器用なマネができるとは知らなかったけど。

 今度こそ、目が覚めた。

 部屋の窓にはカーテンがなくて、まぶしい光が差し込んでいる。

 カーテンを新しく注文しているのは現実だ。

 謎のお姉さんと結婚して、彼女がベッドのそばにいたのは妄想だ。

「でも結婚してるなら、一緒に寝てるもんじゃないのか?」

 いや、別にお姉さんと同衾したいわけじゃない。

 寝たくないこともないが、現実離れしすぎていて妄想しきれなかったのか。

「でも、変にディテールがくっきりしてたなあ……」

 一度会っただけのお姉さんなのに。

 しかも、謎すぎた結婚の申し込みの直後に母さんから連絡が来て。

 それをいいことに、僕は逃げ出してしまった。

 だって、いきなり結婚を申し込んでくる美人なんて、存在そのものが詐欺だろう?

「…………っ」

 僕は大きく首を横に振って、謎のお姉さんの記憶を追い払う。

 結婚とか、僕にはあまりにも無縁すぎる。

 年齢的な意味でも、あの人が高嶺の花という意味でも。

 僕はベッドから下りて、カーテンのない窓の前に立つ。

 カーテンのない窓、ちょっと詩的かもしれない。

 僕も普通の中学生ではあるので、ポエティックなことへの憧れはある。

「うわ……」

 僕は、ささっと後ずさって窓から離れた。

 まだ慣れない新居から眺める景色は、正直ゾっとする。

 だってここ、タワマンの四十二階だから。

 はっきり言って、僕は高いところが苦手だ。

 高所恐怖症は、別に恥ずかしくはない。

 四十二階──一六五メートルの高さから落ちたら一〇〇パー死ぬんだから、恐怖を感じるのは当然だ。

 のんきに「いい景色だ~」なんて喜べるほうが生物として不自然じゃないか?

 このタワマンの部屋は、父が僕ら母子に与えたものだ。

 直前にトラブルはあったものの、僕と父との感動の対面は無事に行われた。

 でも正直なところ、拍子抜けするほど何事もなく終わった感はある。

 少なくとも、父が夢に出てくるような強烈なインパクトはなかった。

 父との対面イベントは、早くも記憶が薄れつつあるが、なんとか思い出すと──



 父親との対面は、あっさりしたものだった。

 てんじょうたかはるというどこか古めかしい名の父は、どこにでもいそうな、ごく普通の中年男だった。

 やんごとない一族というから、どんなに高飛車で封建制を引きずった時代錯誤な男が出てくるかと思っていたのに。

「譲くん、今日はわざわざ出向いてもらってすまないな」

 父の第一声は、こんな謝罪だった。

 物腰は柔らかく、僕のことを〝譲くん〟と呼び、母のこともさん付けだった。

 想像とはまったく違い、むしろまともすぎるほどの人に思えた。

 母が父のことを多く語らなかったのは、ツンデレ表現だったのでは?

 ただ、僕が息子として認知されただけで、父と母が結婚するわけではないらしい。

 中学生には想像がつかない、大人同士の事情があるんだろう。

 食事をしながら、僕の中学生活や母の仕事についての会話が続いたのだが。

 不意に父は、僕を見ながら涙をこぼした。

「あ、すまない。いや、なんというか……無事に育ってくれたんだなあと」

「はぁ……」

 ずっと会っていなかった息子の成長に感動するのはわからないでもない。

 でも、泣くほどのことだろうか?

「何事もなく平穏無事に、ってわけでもなかったけどね」

「…………っ」

 ぼそりと母がつぶやき、父はぎょっとした。

 確かに今の僕は元気ではあるが、

「まー、まだまだヤンチャをやらかす歳だけど、あまり無茶はしないようにね」

「わかってるよ」

 母が隣の席から手を伸ばして、僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でてきた。

 父は、そんな僕ら母子を嬉しそうに見つめて、うんうんと頷いている。

 やはり、父は悪い人間ではなく──むしろ好人物なのだろう。

 それを確認できただけで、この対面にも意味があったのかもしれない。



 そんな父との対面後、僕の生活に大きな変化が起きた。

 僕は、その天条寺という高貴であらせられる一族の一員として認められたわけだ。

 セキュリティ上の問題があるため、警備体制がしっかりしたマンションに引っ越し、さらに私立の中学に転校してほしい──

 父から出された要望は、その二つだった。

 まあ、〝月に一回は親子三人で食事〟なんてものもあるけど、それはたいしたことじゃない。

 僕の家は2LDKの古いアパートで、通っている中学もごく普通の公立だった。

 どちらもセキュリティに不安を感じたことはない。

 というか、僕らって狙われる可能性があるの?と、ちょっと怖いような。

 もしかしたら死ぬかもしれない、と考えると引っ越しもやむなしだ。

 父親に言わせると〝万が一に備えて〟らしい。

 母親の安全という意味でも、拒否もしづらい。

 父が提示してきたのはいかにも高級そうな新築タワーマンションで、快適な生活に興味がないと言ったら嘘になる。

 元の家から引っ越し先のマンションまでは電車で三〇分ほど、横浜駅のそば。

 とんでもなく遠方への引っ越しだったら、もうちょっと迷っただろうが……。

 母との相談の結果、引っ越しも転校も受け入れることにした。

 転校はまあ──割とどうでもいいというか、今の中学にたいして未練はなかった。

 僕はあまり、学校で深い人間関係を築かずにいたからだ。

 友達をつくっても、死ぬまで一緒というわけでもないし。

 適度に付き合う知人がクラスに数人いればいい、くらいの考えだった。

 親しい友人がいなかったのは、そんな考え方に原因があるのかもしれない。

 結局のところ、中学が変わったところで死ぬわけでもない──というのが転校を受け入れた理由かも。

 編入試験は普通に受けることになったが、そちらは学力的な意味ではどうにでもなる。

 引っ越しは業者任せであっという間に終わり──

 転校も、いかなる力が働いたのかあっさりすべての手続きが終了して。

 父との対面から、約一ヶ月後。

 カーテンのない部屋で目覚めている僕は、既に新しい学校に通っている。

 五月のGWゴールデンウィーク明けに、僕は私立〝しんどう学院中等部〟の生徒になったのだ。



 新しい中学の制服はよくあるタイプで、濃紺ブレザーに白シャツ、ネクタイ、ズボン。

 女子も濃紺のブレザーに白ブラウス、赤いリボン。それにグレーのミニスカート。

 ただ、五月になってあたたかくなってきた今、ほとんどの生徒が上着は無しでスクールセーターだけ着ている。

 郷に入っては郷に従えということで、僕もおとなしめのベージュのセーターを着用した。

 そんな、真道学院に転入して三日が経って。

 昼休み──僕は学校の屋上にいた。

 真道学院は珍しいことに、屋上が生徒に開放されている。

 二メートル以上あるフェンスがぐるりと張り巡らされていて、安全性も充分。

 高いところが嫌いな僕も安心できる。

 本気で早まりそうな生徒を止めるなら、フェンスの上に有刺鉄線が必要かもしれない。

 あとは、高圧電流も流せば完璧だ。

 足元には人工芝が敷き詰められ、ベンチやテーブルもいくつか並んでいる。

 屋上庭園という感じで、まさに憩いの場だ。

 外で過ごすにはちょうどいい時季なので、昼休みになると生徒たちでにぎわう。

 一方、僕はフェンス際に並ぶベンチの一つに座り、もぐもぐとパンを頬張り、思い出したようにペットボトルのコーヒーを飲んでいる。

「あ、灰瀬くん、こんなところにいたんですか!」

 僕に話しかけてきたのは、黒髪お下げで眼鏡の女子生徒。

 絵に描いたような委員長タイプで、イメージを裏切らずクラス委員長だ。

「委員長、今からお昼? もうすぐ昼休み終わりだよ?」

「いえ、灰瀬くんが教室にいなかったので。もしかすると、ここかと」

 委員長は風に揺れるスカートを押さえながら、怪訝な顔をしている。

「お昼になると、いつもどこかに行ってると思ったら。教室で食べないんですか?」

「まだ友達いないし、一人でパン食べてたら教室の空気悪くなるんじゃない?」

「そ、それは……」

 しまった、親切な委員長を困らせちゃったか。それは本意じゃない。

「あ、購買で売ってるパン、美味いね。その辺の惣菜パンとか菓子パンじゃないんだな」

「ええ、学校が契約してるパン屋さんから仕入れて──いえ、そんなことより。灰瀬くん、まだウチの学校に慣れませんか?」

 委員長は、転校したばかりでぼっちになっている僕を心配して来てくれたようだ。

「まだ三日だからなあ。でも、大丈夫。公立でも私立でも同じようなもんだし」

「そ、そうなんですか。割と頑張らないと入れない学校なんですけど」

 委員長は、若干引いているらしい。

 物言いには気をつけたほうがいいかも。

「別にウチは特別な学校でもない、というのはそのとおりだろう」

「なんだ、あなたも来たんですか?」

「俺も委員長だからな。転校生を放っておくほど無責任じゃない」

 新たに現れた男子生徒のほうも委員長。

 丁寧に撫でつけた黒髪に眼鏡という、これも絵に描いたような優等生タイプだ。

 クラス委員長は男女二人で、僕のクラスはなんと双子の男女だ。

 双子が同じクラスになるのは珍しいが、たぶんクラスは成績で決まってるんだろう。

 ちなみに姉と弟だそうだ。

 男女の双子は二卵性にもかかわらず、この二人は顔も似てる。

 姉弟二人とも地味ながら整った顔立ちだ。

 ただ、どうもどこかで見覚えのある顔なのだが──

 似ている芸能人でもいただろうか、というのが転校以来の僕の悩みだ。

「灰瀬、屋上で食べるのはいいが、適当に誰か誘えよ。だいたい誰でも応じてくれると思うぞ? みんな、転校生には興味持ってるし」

「そっか、心配させたならごめん。いつも屋上に来てるからって、唐突にフェンス乗り越えて飛び降りたりはしないから」

「そ、そんなことは心配してませんが!」

 委員長姉のほうが、珍獣を見る目を向けてくる。

「やっぱり変わってるな、灰瀬。俺たちは変わったヤツは嫌いじゃない。友達に立候補なんてウザいことは言わないが、昼飯くらいはいくらでも付き合うぞ」

「ええ、弟も一緒というのが引っかかりますが──一緒にお昼食べましょう」

 この委員長ツインズは、徹底したお人好しらしい。

 僕は礼を言って、彼らの提案を受け入れることにした。

 彼らと一緒に昼食を食べても、もちろん死ぬわけじゃないんだから。

 転校生としては彼らの手助けはありがたいし、できるだけ愛想良くしていよう。

 委員長ツインズは、仕事があるらしく、屋上から出ていった。

 忙しい中を縫って、僕の面倒を見に来るとは本当に親切だ。

 他の生徒も屋上から次々と去って行く。

 もうすぐ昼休みも終わりだ。

 周りがいなくなったのを確認して、僕はベンチに横になって目を閉じる。

 別に授業をサボるつもりはない。ギリギリまで寝転んでいたいだけだ。

「はぁ……」

 家庭の事情で環境が激変して、少しばかり疲れているだけだ。

 大きな変化はあったような、特にないような。

 転校という選択肢が間違ってたとは思わないが──


「こんな気持ちいい屋上で寝てたら、目が覚めなくなるかもね」


「…………?」

 寝転んだまま目を開けると。

 真っ白な、まぶしい太ももが目に入った。

 風でふわふわとスカートの裾が乱れて、その奥が見えそうになっている。

 いつの間にか、ベンチの横に女子生徒が一人現れていた。

「もうチャイム鳴るよ、

「…………」

 僕はベンチに寝転んだまま、その女子生徒を見上げる。

 スカートの中はギリギリ見えないし、このままでもいいだろう。

 色素の薄い髪は長く、頭の左側に髪をまとめたお団子がいいアクセントになっている。

 白ブラウスに濃紺のスクールセーター、グレーのミニスカート。

 スカートの裾は、まだひらひらと風に揺れていて。

 黒のリュックを背負い、そのサイドには黒い熊と白熊の小さなぬいぐるみが付いてる。

「灰瀬くん、まだ寝てる? 親切に起こしてあげたんだけど」

「起きてる。いや、僕、やっぱまだ寝てる?」

 今日の朝、見た夢と似てる。

 まぶしいのはあさじゃなくて太ももで。

 そばにいるのは、謎のお姉さんじゃなくて──

 一七〇センチを超えるであろう身長、大人びた顔、大人びた表情。

 すらりとしていながら、肉づきのいい太もも。

 ギリギリまで短くしたスカートから伸びる脚は、夢とは思えない圧倒的迫力だ。

「えっと、ホテルで会ったお姉さん……だよな?」

「わたし、しらかわはく

「白河、白亜……」

「お姉さんじゃなくて、君と同じ中学二年」

「えっ、中二!?」

 思わず上ずった声が出てしまった。

 中学の制服を着ていても、最低でも一つ上、三年生かと思った。

「わたしが中二だと、なにか問題でも?」

「この太ももの肉づきは中二とは──いえ、なんでもないです」

 僕はお姉さん……じゃない、同級生に睨まれたので脚から目を逸らす。

「とりあえず起きたら? わたしの脚を見たいなら、座ってても見られるでしょ?」

「そういうわけでは……」

 ごにょごにょ言いつつ、僕は身体を起こしてベンチに座った。

「ちょっと不安だったんだよね。君、死んだみたいに動かないから、このまま起きないんじゃないかって」

「眠ってたわけじゃない……いや、そこにいるのに気づきもしなかったな」

「あんまりぐっすり寝てると、天使が迎えに来るよ」

「はぁ?」

「知らない? 〝マタイ、マルコ、ルカとヨハネ、私が眠るベッドにどうかご加護を〟」

「……マザーグースだっけ」

 英語の授業で習った記憶がある。

 四人の天使が子供が眠るベッドを見守っていて、目が覚めなかったら子供の魂を天国に運んでしまうとかいう──子守歌らしいが、怖すぎる。

「自称天使ですか? ちょっと痛くないだろうか?」

「中学生だからね、痛いくらいがむしろ普通」

 そんな理屈があっていいんだろうか。

「中学生……中学生か」

「なにをお疑いで? れっきとした中学生だよ、女子中学生。専門用語で言うと、JC」

「そ、そうなんだ……」

 いくらホテルのときより年下に見えても、中学生とは思えない。

 長身とスタイルの良さのせいだろうが──顔つきはよく見ると意外と幼いかも。

「ちなみに、君と同じクラスでもあるよ」

「……え? 転校して三日間、教室で見た覚えがないような」

 いや待て、そういえば、僕の隣の席が空いていた。

 僕の席は廊下側の一番後ろで、そのお隣は単なる空席かと思ってた。

「ホントだって。そんな嘘ついても、即バレるじゃん」

「……カバンを持ってるのは、遅刻してきたのか、これから帰るところだったのか?」

「ちょっと、姫様出勤をキメたところ」

「お姫様って出勤するのか?」

 要するに遅刻らしいが、僕のイメージではお姫様というのは、もっと勤勉なものだ。

「ホントは今日もお休みにしようかと思ったけど、あんま何日も休むとね。わたしの顔を見られないと、みんな寂しがるから」

「状況はよくわからんが、君が自意識過剰なのはわかった」

 これだけ見てくれがよければ、過剰にもなるだろうが。

「三日ほど、家でのんびりしてたんだよ。学校に毎日行かないといけないなんて決まりはないしね」

「僕、真道学院は真面目なお嬢様お坊ちゃんが通う学校かと思ってたよ」

「だいたい合ってるけど?」

 わたしは例外、と言いたいらしい。

「ところで、そろそろ種明かしをしてもらえるんだろうか?」

「種明かし?」

「なんで、僕の名前を知ってるのか? あのホテルにいたのは偶然なのか? 僕が転校してきた学校にどうしているのか? どうして中学校に潜り込んでるのか?」

「畳みかけてくるなあ。学年は偽ってないよ」

 じゃあ、なにを偽ってるんだろう?

 本当になにか偽っていたら怖いので、ツッコまないことにして。

「えーと……白河さんもここの生徒なら、お金持ちのお嬢様ってわけか」

「話をごまかしたね。まあ、いいけど。白河家は大昔からの名家で、しかも今もお金持ちって珍しい家だよ」

「自分で名家とかお金持ちとか言うかな。白河さん、変わってるな」

「ねえ、真道では同級生なら君付けさん付けじゃなくて全然オッケーなんだよ」

「さっき、僕を君付けで呼んでなかった?」

「わたしには、灰瀬くんは特別だから♡」

 彼女はニヤリと笑って、思わせぶりな視線を向けてくる。

 落ち着いているかと思ったら、中二らしい表情も見せるようだ。

「二度目の対面で僕が特別になれるなら、白河さん──白河はよっぽどチョロいのかな」

「それはそのとおり」

 白河はまた微笑み、フェンスから離れて僕の前に回り込んでくる。


「白河白亜の恋愛は、いつでも猛スピードだから」


「…………」

 思わせぶりになにを言ってるんだろう、この人は。

 恋愛が猛スピード……まさか、ビッチって意味じゃないだろう。

「ねえ、灰瀬くん」

「ん?」

「悪いけど、わたしのスピードに付き合ってもらうよ。じゃ、行こうか」

「わっ」

 白河はがしっと僕の両手を掴んで引っ張り、ベンチから強引に立ち上がらせてくる。

「い、行くって……?」

「もちろん、最高にいい気持ちになれる幸せなところだよ」

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