第9話 デート服

クリスは明らかに私に気がある!

あれからよく食堂に来るようになった。

ヒロインとマクベル王子が2階席で食事していても気にしない。いつものようにサービスしておかずを盛って持っていくとクリスは


「何だかいつもありがとうございます!」


「良いのよ!食べ盛りなんだからしっかり食べて栄養つけてね!」

そして将来は私を嫁に迎えてください!!

と思ってるとクリスはもじもじしながら


「あ、あのドリスお姉さん…も、もし良かったら今度の学園のお休みに…いつものお礼に街へ行きませんか?」

と言われた。こ、これは!紛れもなくデートのお誘い!!


や、やったーー!ついに!イケメンとデート!!


「ええ!もちろんいいわよ!!」

と返事を返すとクリスはにこりとして


「では次のお休みに学園前でお待ちしてます!」

と約束した。

私は浮かれて仕事に戻るとメルさんは


「……あんた…浮かれてないでちゃんとしなよ?」

と注意されるぐらい浮かれていた。

今度こそ失敗するかと思い、ハッとした!そう言えば!デートに着て行く服がない!いつも通勤に使う服しかない!!

仕事の時は作業着を貸してもらえるけど…。

どうしよう。まだ給金日は先だ。メルさんに借金するのも気が引ける…。

副業でも探すと言っても今からじゃ間に合わない!次の休みは3日後なのだ!


どうしよう!

悩みながら帰宅する。


まだゴルダは帰ってなかった…。

私は床板の一つを外し、そこにお金を貯めているのを見た。ゴルダの貯金だ。掃除してる時偶然見つけたのよね。


「す、少しだけ…借りるだけなら…次の給金日に戻しておけばいいんだし…」

と私はお金を手にしてまた出かけて服屋に入りデート用の服を探した。


家に帰るとゴルダが帰って来ていて服の包みを見て


「あれ?それ服?どうしたの?」

と聞かれた。


「別にいいでしょ?1着しか無いから買ったのよ」

と言うとゴルダはどんな服?と聞いてきた。


「何よ?うるさいわね…。今度デートに来て行くのよ!」

と言うとゴルダはぱあっと明るくなった!


「ほんと!?ドリス!俺とデートしてくれるんだ!やった!」

と勘違いされて私は


「違うわよ。あんたとするわけないでしょ?他の人とよ」

と言うとゴルダはえっ!?と驚き


「な、なんで!?ほ、他って?」

と青ざめる。


「関係ないでしょ!


そもそも私はあんたと別れたし今はお金がないからここに同居してるだけじゃない。勘違いしないでよね」

と言うとゴルダは悲しそうな顔になり


「そんな……ドリス…」

と力無くソファーに腰を落とした。

一応夕食は作り置いたがゴルダは食べないで毛布を被りソファーで寝ていた。


そしてゴルダと気まずくなる一方で次の休みはやってきた。

私がとうとう新しい爽やかなグリーンの色合いの洋服を着ていたのを見てゴルダは


「……ドリス…とても綺麗でよく似合ってるね」

とにこりと笑い


「…行ってらっしゃい…怪我しないようにね」

と送り出した。


「……行ってきます」

と私は出かけた。デートなのに気が重い。服がズシリと重い気がした。これはただ借りたようなものよ。ちゃんとお金は返す!!


待ち合わせ場所に行くと既にクリスは花を持ち緊張して立っていた。服も学生服じゃなくデート用らしく大人っぽく見えるような服を着ていた。背伸び男子!!可愛いわ!!

と私はにこりとして駆け寄り


「早いのね!びっくりしたわ!」

と声をかけるとクリスは緊張しているのか


「あ、あの俺…ドリスさんのような綺麗なお姉さんと出かけるなんて初めてで…」

と言うクリスに私は嬉しくなる。


「ありがとう!」

と言うとクリスは


「その服!とても似合ってますね!!ドリスさんいつもよりとても綺麗です!!」

と褒められた。


「ふふ、ありがとう!行きましょうよ!」

と言いデートを開始する。

服を褒められたがなんとなく私は罪悪感がしていた。イケメンに褒められたのだから良いじゃ無い。でもチラリとゴルダの寂しそうな顔が浮かんできた。


関係ないわ!あんな奴…。


クリスと笑いながら街を回っていると路地裏から誰か出てきた。帽子をかぶった男で私を見て


「ん?お前…ドリスか?なんだ?年下捕まえて嬉しそうだな?上手くやってるのか?ひひ」

と言われ


「あの…誰?ですか?」

と聞くと中年の男は


「まぁ…声をかけられたくないよな?元雇い主にな!」

と言う。


「え?」

何?…私が転生する前の雇い主??

知らない。前のドリスはもういないもの。


「くくく…」

と男は下卑た笑いでジロジロ見た。


「あの!何ですか貴方!失礼ですよ!」

とクリスが前に出て庇う。あらイケメン!!


「坊ちゃん、このドリスは以前私の元で花売りをしていた女でさあ!まぁ…デビュー前に辞めちまったけどね。他の男と結婚したとかで!今はどうか知らないけどな」

と笑い去る。私は青ざめる。は、花売りってなんなのよ!?それって!!

と思っているとクリスは


「花売り?…結婚してるんですか!?」

と更に青ざめて私から一歩離れた!!


「あ、あの、違うの、私その…頭を打って記憶がなくて結婚した覚えも無くて…」

と言うがクリスは震えて


「は…俺は…バカだ。失恋しお姉さんの優しさに甘えるところだった!!…ごめんなさい俺…む、無理です!!」

とクリスは走って行ってしまう!!

え!?


ええええええ!!!


「そんな…イケメンに逃げられた…!!」

と力無く私はよろけて壁に寄りかかって項垂れた。罰が当たった!人様のお金を勝手に使い洋服なんか買ったから…。


…あーあ…帰ろう。馬鹿らしい。ゴルダに誤りお金はちゃんと返さないと。


と歩き出そうとしたら誰かに声をかけられる。

二人組の男達で私を見てニヤニヤしている。


「ひひひ、見てたよ!お姉さん…男に捨てられたよね?可哀想に!暇だろ?ねえ、俺たちの相手しない?」

と近寄られゾワッとした。


「何なのあんた達!!」

と逃げようとするが手を掴まれ首元の匂いを嗅がれる。


「ひ…」


「へへ、良い匂いの女だな!!」

「俺たちラッキーだな!」


「嫌っ!離して!!」

と暗がりに連れて行かれそうな所を…


「おい!!俺の妻に何してんだ!!」

と聞き覚えのある声がした。

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