第5話 イメージと違う王宮

私は王子のサイン付きの紹介状を見せて王宮へと入った。流石に広い。ゲームで見たことはあるけど王子の部屋のシーンとかが多くて内装はあまりわからなかった。


私は相部屋になるメイドの女に挨拶した。女は黒髪を三つ編みにして後ろで纏めて結んでいた。


「あんたが同室の新人?厨房で働くんだってね」

ともう噂されてるのか広まっていた。


「はい!よろしくお願いします!私はドリスって言います」

と頭を下げると女は


「私はシャム・レ・レガートよ!ここじゃあんたより先輩ってわけ!わかってると思うけど勝手なことしたら許さないわよ?」


「勝手なこととは?」


「ここじゃ皆…マクベル王子に取り入って貰おうと必死なのよ。あんたは所詮厨房で働く女。王子に会えることなんかないわ」

とシャムは鼻で笑った。


な、何ですって!?

そんなことない!王子は私の作るデザートが食べたいって言ってたし会う機会もあるはず…」


「料理を運ぶのはメイドの私たちの仕事だしね!」

と言われて確かにそうだと気付く!!

くっ!!なんてことなの!折角玉の輿を狙えると思ったのに!!


いや…方法ならいくらでもある!

諦めるのには早い!悪役令嬢のレイラにも興味ない今がチャンス!この機を逃したくない!


「私は王子に挨拶してきますわ!」

と部屋を出て行く。使用人の一人の男性を捕まえた。シーツなどの交換で部屋を回っている男だだた。


「あれ?新人さんかな?へえ?えらく綺麗な子が入ったんだね!今度一緒に街で食事でもどう?」

と私は誘われた。うはは!美人に生まれ変わって本当に感謝だ!


「ごめんなさい、王子の部屋を探しているの。挨拶に行かなくちゃ」

と言うと男はニヤつきながらも教えてくれた。

私はにこりとして


「ありがとう!」

と言い、さっさと王子の部屋に向かう。

警備の男達が部屋の前で立ち


「ご苦労様です」

とお辞儀をして事情を説明すると


「…ボディチェックをさせろ!怪しいものを持っていないかだ!くく」

とやらしい視線を寄越した!げっ!


「ちょっと!そんなの持ってないわ!そんなこと言って私の身体触る気?」

と身構えたら中から


「何を騒いでる!?」

とマクベル王子が顔を出した。


「あ!王子!私です!学園の食堂で働いていたドリスです!!美味しいデザートを作りに雇われた者です」

と言うと王子は


「あっ…。ああお前か。食堂の…。そうだった、王宮で働けるようにしたんだったな。飯時は楽しみにしているぞ!


しっかり働けよ」

と言い私を案内させるよう従者の一人に言い、王子はバタンと部屋に戻る。

嘘っ!会話これだけ?もっと話したい!くっ!これなら食堂の方が話せた?

後悔しかない。


廊下を通る時メイド達がクスクス笑っていた。感じ悪いな。


厨房に着くとシェフの強面のおっさんミルガ・オズボーンさんやニタニタした男達が多数いた。女は居なく身の危険を感じる。


「いい子が入ったな!」

「見ろよ!綺麗な顔をしてる!俺好み!」

「俺も彼女いないしチャンスだな」

と舌なめずりしていて怖い。

冗談じゃないわよ!!

とうんざりする。


「よろしくお願いします」

と頭を下げておく。


しかし初日は雑用で芋の皮剥きから始まる。途中で男が近寄り


「手を切らないでね?」

と似たり近寄りついでに尻を撫でられ


「きゃっ!」

とビクリとすると


「あ、ごめん、当たっちゃっただけだよ!わざとじゃないよ」

と絶対わざとなのに男はヘラリとして持ち場に戻る。

それから数日、やっとデザートを作らせてもらいお皿を出そうと高い戸棚に台に登り取り出そうとした時も下からズボンを履いているのに覗かれる。


「落ちないように支えようとしてさぁ!」

と下心丸出しの男たちが言う。それからもわざと当たったと言い、胸をかすめたり肩を抱かれたりと散々セクハラに遭う。

もういや!部屋に戻り泣いてると同室のシャムが馬鹿にしてくる。


「ちょっと触られたくらいなんなの?あんた庶民なんだから当たり前でしょ?それに新人じゃない」

と言う。

なんなの?この世界じゃ当然なわけ!?そんなの嫌!いつか襲われる!!


私は王子の部屋に再び向かうと警備の人に止められる。


「おい、何してる!?今王子には来客が来ている!遠慮しろ!」


「来客?」


「王子の想い人だよ!同学年の方だ」

私は青ざめる!そ!それってまさか!!


「まさか!ティナ・グライド!?」


「ん?知ってるのか?どうして…」

と警備の男達に警戒される。

ヒロインが王子の所に?それに王子の想い人!?くっ!やはりヒロインは流石だわ!もう王子のハートを掴んでるなんて!

と思ってたら向こうから従者を引き連れた悪役令嬢レイラがやってきた!!


「あら?貴方は!食堂の!!」

と睨まれた。


「レイラ様…」

と言うと


「今は貴方の相手なんてしてられないわ!退いてくださる?私の婚約者のマクベル様が庶民の女を部屋に入れたなんて聞いたら許せないわ!」

と騒ぎ王子が部屋の扉を開けた。


「うるさいな!また何かあったのか!?」

部屋の奥にはヒロインが座っていた。


「マクベル様!庶民の女と何を!?私と言う婚約者がありながら!!」


「別にいいだろう?話がしたくて読んだんだ!

お…食堂の女!美味しいデザートを二人分頼む!ティナにも食べさせてやりたい」

と言い私もカーッとなった!何で私がヒロインの分まで作らないといけないの!?


「マクベル王子!あの厨房では作れません!料理人が私にわざと触るのです!!なんとか環境を整えて欲しいですわ!」

と言うと王子はピシャリと言う。


「は?まさかお前専属の厨房でも作れと言うのか?ふざけるな!そんなことくらいでいちいち騒ぎ立てるな庶民!」


は?

何言ってんのよこの王子!セクハラなのよ?

…いくらヒロインにしか興味ないからって…。しかしレイラも


「くだらないですわね!そんなことで!嫌なら辞めたら?王子に色目を使う気なら私は許しませんわよ?」


「色目ならそこのティナさんも庶民でしょ!?」

と言うと王子にバシンと叩かれた!


「ティナの事を悪く言うな!!もういい!お前なんかクビだ!出て行け今すぐ!!」

と言う。


「あら?お可哀想」

とレイラは笑う。

私は悔しさでいっぱいになる。いいわよ!金持ちなら他の攻略対象の貴族やイケメンもいるし!!こんなセクハラ職場なら辞めてやるわ!!


「わかりました!!私は食堂に戻りますね!お世話になりました!!」

ふん!もう学園であっても王子なんか無視してやる!!

私は荷物を纏めに部屋に戻るとシャムがニヤけて


「もう辞めるの?根性ないねあんた!」

と嫌味を言われて出て行く。とりあえず働いた分のお金はきっちり受け取り王宮を出た!


くっ!悔しいいい!!

それより寝る所探さないと!宿でも取る?いくらするんだろ。最悪野宿…。ホームレスか…。

と途方に暮れていると…


手荷物を持ったイケメン男が声をかけた。


「ドリス?…やっぱりドリス!!」

と。なんか聞いたことある声…。誰よと思ったが思い出した!!先日まで同じ部屋にいた男の声!


「は!?はあ!!?あんたまさか!!ゴルダー!?」

と私は仰天した!

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