空から落ちてくるものは数あれど

CHOPI

空から落ちてくるものは数あれど

「うっわ、最悪。ケチャップ切らした」

 仕事終わり、家に帰宅して『さぁ、晩ごはんは何にしよう?』と一人頭を悩ませていたところ、どうしてもケチャップ味のご飯が食べたくなった。だからシンプルにチキンライスを作ろうと思った。


 材料は揃っているはずだった。先日炊き込みご飯を作った際に少し残った鶏肉と、あれば何かしら使うと買い置きをしている玉ねぎ、それに少し前に実家に帰った際に『あ、これ、あんた使ってよ』と体よく押し付けられた、買ったはいいものの持て余していたらしいミックスベジタブルも冷凍庫にまだ残っていた。だから残り物とはいえ、キレイで鮮やかな色どりのチキンライスを作れる。その予定だったのに。


 肝心のケチャップが絶妙に足りなくて、買い置きのストックが無かったかと悪あがきをしてみたけれど、残念ながらそんなものウチには無かった。諦めて今夜は別の料理を作るか、それとも今から買いに出かけるか。そこで少し迷ったけれど、完全に口がケチャップライスを求めていたから、諦めて深夜も営業している家の近所のスーパーへと向かうことにした。


 一度部屋義に着替えてしまったものを、もう一度着替え直して軽く鏡を見て見た目を調える。もう、かなりいい時間帯だから、道で誰かとすれ違うことも無いだろうし、ほんとに仮にあったところで、きっと暗くて良くわからないとは思うけど。自分自身のモチベーションを上げるため。ただそれだけのために(でもそれが重要なことじゃないかと、個人的に思っていたりもして)何とか準備をして、そうしてようやく家の外に出た。


 仕事が終わって帰宅して、それからなんやかんやしていると気が付けばてっぺん超えている、なんてこともざらな生活を送っている。そのせいか、たまに学生時代の友人たちとご飯に行ったりする際に「この時間にこんなに食べるの、罪悪感あるよな~」みたいな話が出ても、正直あまり共感ができない。それどころか『……なんなら、いつもより早めの夕飯なんだが?』と一人、心の中で呟いたりするくらいで。それは今日も例外ではなく、先ほど家を出る際にチラッと確認した壁掛け時計はもうあと数十分で今日が終わる時刻を指していた。


 ケチャップを買うついでに、何となく冷蔵庫の中を思い出しながら買い物数点を追加する。レジを通して買い物袋に詰めてスーパーを出る。『これから家に帰って作って食べるのか……』と、自分自身で決めたことではあるけれど、それでもめんどくさい気持ちはどうしても出るもので、小さくため息をつきながら家路を急いだ。


 その帰り道のことだった。薄暗い街頭しかないこの街の路地裏はどうしたって薄暗く、だけど今日は月がきれいでそのおかげでいつもよりも道が輝いて見えていた。ふと見上げた空に浮かぶまんまるの大きな黄色いお月様を見て、『ケチャップライス止めて、オムライスにしたい気がしてきた』なんて思うくらいにはキレイな月夜だった。その大きな月が、どんどん大きくなって近くなって……!?


「わぁーっ!?」

 バイーンッ、ボンッ、ボンッ……


 ゴムまりが弾むかの如く、目の前にお月様が落ちてきた……、と思ったけど。よく見たら月なわけがない、落ち着け……。


 目の前に落ちてきたソレをよくよく観察してみる。キレイな球体は、月の光を受けているからか、クリーム色をしていた。さっき弾んだところを見ると、きっと柔らかいんだろう。と、いきなり何かがにゅっ!と飛び出た。それはよくあるクマやウサギなどをイラスト化した時に描くような腕に似ていた。時間差で、2本目、3本目……球体から計4本、飛び出る。続いてその4本何かが生えた球体の上にもう一個、一回り小さい球体が生えて……雪だるまに手足が生えているような見た目になった。そうして、小さい方の球体が『パチリ』と音がなりそうな勢いで(恐らく)目が開いた。少しやる気の無さそうな半開きの三白眼がこちらをじっと見てくる。


「あんさん、地球人よな?」

「は?」

「『は?』て、なんなん。聞いただけやん。ちゃうん?」

「え、いや、そうです」

「そうやろ。じゃ、ここは地球でええんやな」

「そう、ですね」

「いやー、良かったわー。変なところに落ちたらどないしよう思たわ」


 ……なんか、独特な話し方をする生き物に絡まれた。その生き物が先ほどスーパーで買った買い物袋に気が付く。


「へー、なんか買うてるやん。なんか作るん?」

「え、これから夕飯……」

「ええやん!自分もご相伴にあずかってええ?」

 え、なにこの生き物。変な話し方だし、変な見た目な上に、めっちゃ図々しいんだけど。無視して歩きだしたらその後ろを当たり前のようにくっついてくる。


「え、自分、なんで無視するん?ええやん、飯くらい。ケチくさー」

「あの、ケチとか言われていい気分しないんですけど。それにあの、あなたなんなんですか?」

 そう聞くとそいつは『あ、悪い悪い。せやな、自己紹介もせんと、飯奢れはアカンな。すまんわ』と言ったあと、自己紹介を始めた。


「自分、地球外生命体。名前はせやな……、なんでもええけどなぁ……」

「雑な自己紹介だな」

「それくらいしか言うことないねん、自分が適当に呼び名、決めてーや」

「はぁ……」


 流されてついつい考えてしまう。クリーム色の雪だるまみたいな見た目、短いU字型の手足。……思いつかねぇ……。

「……『もどき』」

「は?」

「雪だるま“もどき”だし、手足“もどき”ついてるし、もどきの塊じゃん、だから『もどき』」

 そう、そいつ(もどき)に向かって告げたら。



 ――あんさん、センス無いなー!!


 ……とまぁ、深夜にまぁまぁな声量が、月明かりに照らされた静かで薄暗い路地裏に響き渡ったのだ。

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