第33話 退院後の経過

 退院してから次の外来診療の日まで約3週間あった。退院直後は、人生で最大のガリガリMAXな状態だったので、まずは規則正しい食生活で体力の回復を図った。とはいえ、肉類や脂っこいものは胃が受け付けなかったので、朝はサンドイッチやヨーグルト、昼は麺類中心に、夜は味噌汁とご飯といった和食メニューをできるだけ手作りして食べるようにした。体重はなかなか増えなかったが、徐々に身体のふらつきがおさまって、外へも出られるようになっていった。入院中からせっせと健康情報を収集したので、食事はかなりヘルシー志向になっていたように思う。退院後も変わらず、処方された血液サラサラ薬を飲み続けていたが、薬を飲まなくてもきっと全身サラサラだったに違いない。

 症状は、退院後も右耳の奥でザーッザーッという血流音が続いていたが、手術前のような不快な頭痛はなくなった。不思議なことに、右耳を指で耳栓すると音が小さくなり、耳栓を外すと耳鳴りが大きく聞こえることを発見。今まではこの逆だった。ステントを入れたことによって漏れている血液は少なくなっているはずなので、耳の穴の中で音が反響して実際より大きく聞こえているのかなと想像していた。

 頭痛は軽減したが、時折頭がちくちくしたり鈍痛があった時は、これは今、脳内で血流が調整され、修復されている最中に違いない、とポジティブに考えていた。血流音にも次第に慣れてきたのか、特に日中、家事などをしている時は、以前ほど音が気にならなくなっていった。C先生の言っていた通り、逆流していた血流量が徐々に少なくなっていったんだろうと思われる。

 ちなみに退院直後、びっくりする出来事があった。お風呂に入ってシャワーを出すと、ナースコールの呼び出しメロディが聞こえてくるのである。え?なぜ!? シャワーを出したり止めたりしながら、一過性の空耳でないことを確認する。推察するに、これはきっとシャワー音とナースコールの周波数が同じで、脳が勝手にメロディを再生しているんだろう、という結論に達する。最初は驚いたが、何度か体験すると、あら、また聞こえる!という感じで、何だか面白くさえなった。ただし残念ながら、この空耳現象は1~2週間で消失していった。

 耳鳴りが次第に小さくなっていった一方、モノが2重に見える複視の症状は変化なく、手術前よりも生活に不便を感じるようになった。特に外出時、道路に引かれた線が2重に倍増して足元が覚束ない。階段を下りるときは、段の境目がいくつも見えてしまうので、片目を瞑って恐るおそる一段ずつ下りていくという状態だった。時間とともに多少慣れてはいったが、視力障がいのかたの苦労がよくわかった。複視の原因は、右目の眼球が正常に動かないことによって起きる現象らしく、実際に鏡で自分の顔を見ると、右の黒目が中心からズレているのが自分でもわかった。動かそうとすると、目の周辺の筋肉が上手く動かせない感じ。目の周りの毛細血管に血流が来てないのかな?と思い、お風呂に入ったときなどに目の周辺をマッサージするようにした。右目の違和感や動かしづらさは時間とともに少しずつ改善しており、それに伴って複視の状態も少しずつ変化していった。

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