第31話 退院まで②~悪夢を見る

 昼の間あまり動かないので、夜9時を過ぎてもなかなか寝付けなかった。夜間は、あちこちの病室からナースコールやアラーム音が聞こえてくるのも気になった。聴覚過敏が続いていたので、遠くの機械音もよく聞こえ、ICUでの出来事を思い出して気持ちが不安定になってしまう。仕方なく有線のイヤホンで小説を聞きながらウトウトしていると、おかしな夢を見た。薄暗いグラウンド(どうやら昔通った中学校っぽい)で掃除をしている。そこに旅行に持って行くようなシャンプー&リンスのセットが落ちていた。よく見ると自分が失くしたと思っていた物で、あ、こんなところに落としたんだと持ち帰ろうとしたら、周りにいた同級生らしき人達から突然、泥棒扱いされ始める。頭に血が上り、「違います!これは私のです!」と夢の中で叫んでいたら目が覚めた。そこへ看護師さんが駆けつけて来られ、「叫び声が聞こえましたけど…」と言われ、自分が実際に大声を出していたと気がつく。ガーン! 何てことだ! 同室の患者さん達にも迷惑をかけてしまった。前回入院のときも悪夢を見て叫び声を上げるという事件を起こしたが、今回もまた同じことをやらかしてしまった。夢の中のこととはいえ、迷惑をかけたことには変わりない。カーテン越しではあったが、「ご迷惑をおかけしてすみませんでした!」と周囲の皆さんに声をかける。その後は寝るのが怖くなり、明け方近くまで小説の朗読チャンネルを聴いて起きていた。今回も悪夢を見て起きた時、上半身にイヤな寝汗をべっとりかいていたので、体内に残っている薬の影響があったのかもしれない。トラウマである。

 翌入院7日目。当初の入院予定は9日間だったが、ベッドにじっとしていることが耐えられず、朝の回診時、1日早く退院できるかをA先生に打診する。C先生に確認を取ってくださり、翌日の午前中にCT検査と採血をして問題なければ、午後には退院してもよいという返事をもらう。やった! あと一晩乗り切れば家に帰ることができる! さっそく家族にLINEで連絡し、翌日の午後、迎えに来られるか確認を取った。

 一日退院を早めたこともあり、急きょC先生から手術経過の説明があった。翌日は手術に入ってしまうため、家族への説明はまた日を改めてとなった。相変わらずお忙しそうで急ピッチの説明だったが、内容としては手術が無事に成功していること、継続している耳鳴りや複視の症状については、引き続き外来で経過をみていく、というお話だった。過去の症例では、半年後に6割強、1年後に8割強の人が改善しているということを再度話してくださった。モニターで見る頭蓋骨の血管画像は、何だか自分とは思えなかったが、確かに手術で挿入されたコイルやステントが映し出されている。3Dのステント画像を見ながら、ついに私もサイボーグ人間になったのね、と内心つぶやいていた。

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