第28話 ベテラン看護師さん

 その後すぐにスタッフさんの交替時間になった。担当だったベテラン看護師さんは大忙しで、交替時間を過ぎてから、わざわざ着替えと清拭のサポートに来てくださった。残業になってしまったのに、「お待たせしてごめんなさいね」と優しい。私のいた病室がスタッフルームの向かい側だったのでスタッフさん達の会話がよく聞こえたが、とにかくベテランスタッフさん達が本当に骨身を惜しまず仕事をしている様子がよくわかった。若手看護師さんのサポートに患者さんのフォロー、細やかな気配りと仕事量が半端ない。前回の入院時に、別のベテラン看護師さんに「本当に大変なお仕事ですね! ある意味、先生方よりもすごいと思いますよ」と言ったら、「大変ですけど、自分でやるって決めたので」と笑顔が返ってきたが、生半可な気持ちで続けられる仕事ではないだろう。覚悟のある人だけが辞めずに残って現場を支えているんだな、と感銘を受けた。

 ベッドで着替えを済ませた後、この日はそのまま今いる病室に泊まり、元の病室へは翌朝戻るということだった。尿管からも解放され、トイレにも自分で行けるようになったが、ベテラン看護師さんの判断で、朝まではトイレに行くとき車イスを使うように指示される。病室からトイレまで距離があるため、一人で歩いていくにはまだ不安が残るので、夜勤の看護師さんがトイレの前まで車イスで送り迎えしてくれるという。一人で行けそうな気もしたが、ここは大人しくご厚意を受け入れることにした。車イスに乗るのも初めてだし、貴重な経験だ。発病してから何度か入院するうちに、『自分のことは自分でする』というそれまでのポリシーが通用しない状況に直面し、『ありがたく人の手を借りる』という慣れない修行をしてきたような気がする。これから先の人生、もっと人の手を借りる機会が増えるだろうから、今から抵抗なく頼みごとができるように訓練していかないと…。

 楽しみにしていた夕飯は、残念ながらお目当てのスープがなく、仕方なく温かいほうじ茶と野菜の煮物をいくつか食べて終わりにした。いつものことながら、術後は温かいおかゆにしてくれればいいのに、と思う。手術で絶食したあと、パクパクと普通にご飯を食べられる人はどの位いるんだろうか? 疑問。

 夜の間、何とか寝ようと試みたが、脳が覚醒しているのか神経が過敏になっているのか、あまり熟睡はできず、少しウトウトしては目が覚めるという状態を繰り返していた。病室は私一人で静かだが、廊下の先からは相変わらずいろいろな機器音が聞こえてくる。特に、ICUで悩まされたアラーム音は、聞こえると心臓がドキドキして胸が苦しくなってしまい辛かった。救急病院という場所がら、夜中も救急車の出入りするサイレンの音が外から聞こえ続けていた。

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