第27話 先生方の回診

 病室で休んでいると、B先生ともう一人の先生が見に来られ、B先生に「胸の痛みはどうですか?」と聞かれる。「姿勢を変えたら痛くなくなりました」と正直に答えると、たぶんパニックを起こしているときにA先生と一緒に見に来られたもう一人の先生が、「痛いのは本当に胸?」と半ば怒ったように聞くので、つい「左胸のここですけど!」とこちらも語気を強めてしまった。きっと忙しいのに予定外の対応に振り回されて大変だったのだろう。あとで反省する。

 意識は次第にはっきりしてきたが、まだ幻覚症状も出ていた。ベッドに据え付けのテーブルや病室の白い壁にバズルのような模様が見えるのである。あれ?模様なんてなかったはず。おかしいぞ…と冷静に考えて、あ、これは幻覚の一種なんだなと気がつく。目を開けた状態でそんな感じで、目を閉じるとまだ瞼の裏に星空のパノラマが見えた。

 朝からパニックを起こしていたので、朝食も昼食も食べられるような状況ではなかった。夕方になって看護師さんから、「血液をサラサラにする薬の入った点滴が終わるので、錠剤を3種類飲んでもらいます」と言われる。未だ幻覚から完全に抜けていない上に、丸2日絶食の状態なので、すぐに錠剤を飲むことに不安があった。「昨日から何も食べていないので、夕飯のあとじゃダメですか? 飲んだら気持ち悪くなりそうで…」と頼んでみたが、点滴の効果が切れてしまうので、すぐ飲んでほしいと言われる。点滴が終わってすぐに血液がドロドロしてくるわけでもなし、2時間ぐらい待ってくれてもいいのに…とグズグズしていたら、「後で来ます」と看護師さんが行ってしまった。忙しいのに悪かったな、でも飲んで気持ちが悪くなるのは嫌だし…と迷っていると、B先生が2人のスタッフさんを伴って病室まで来られ、「どうしました? 薬を飲まないって言ってるんですって?」と笑って質問される。看護師さんの訴えで、説得に来られたようなのだ。やれやれと思いつつ、「2日間何も食べてないので、夕飯のあとに飲んではダメですか?」と一応聞いてみたが、「ビタミン剤と一緒ですから大丈夫。心配いりませんよ」という感じで説得されてしまった。何だか上手く丸め込まれた感はあったが、最後は面倒になって薬を飲むことにした。これ以降、不信感を持たれてしまったのか、私が薬を飲むときは看護師さんがその場で見届けるようになった。病院のルールは厳しい!

 夕食前に、今度はC先生が様子を見に病室まで来られた。昨夜、ICUの拷問部屋から救出してくれた恩人なので、「昨夜はありがとうございました。パニックを起こしてご迷惑をお掛けしてすみませんでした」と頭を下げると、「ICU症候群、PICSって言って、割合よくあることだから…」という感じの意外にあっさりした返事が返ってきた。ICU症候群? PICS? 初めて聞くんですけど…。それらの疑問を聞く余裕なく、体調やら幻覚症状の確認をすると、相変わらず忙しそうにバタバタと去って行ってしまった。

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