第25話 病棟へ~過呼吸パニック

 ようやくICUから病棟へ戻る時間が来たときは、憔悴して胸が痛くなっていた。エネルギー切れを起こしていたのか、身体が冷えて寒気も感じていた。ストレッチャーで病棟へ移動している途中、今まで人生で体験したことのない過呼吸症状が始まった。付き添いの看護師さんに「ゆっくり深呼吸してください!」と言われるが、必死に深呼吸しても過呼吸が止まらない。パニックになったまま、見たことのない病室へと運ばれたのだった。

 過呼吸症状のまま運ばれたのは、広い倉庫のような場所だった。(実際は、ふだん使われていない広めの病室にいた。)付き添いの看護師さんに「ゆっくり深呼吸して!」と言われ続けていたが、なかなか過呼吸が止まらず、気づくと手足が末端からどんどん冷たくなって硬直し始めていた。「すみません! 手足が冷たいんですが、温めてもらえませんか?」過呼吸をこらえ、震えながら必死に頼んでみる。若い看護師さんが少しの間足をさすってくれたが、あまり効果はない。マズい、このままだとどんどん手足の硬直が進んでしまう! そのとき、患者さんの身体の清拭に使う熱いペーパータオルがあることを思い出し、「熱いペーパータオルを持ってきてください!」と必死にお願いする。冷え切った両手で熱いペーパータオルの袋を握りしめ、足先には看護師さんが袋をいくつか当てて温めてくれたが、そのタオルも急速に冷めていった。

 過呼吸と格闘している間、病室の奥の方で姿は見えないが、複数の看護師さんやサポートスタッフさんたちが対応を話している声が聞こえていた。(聴覚過敏だったから聴こえたのかも)「先生はまだなんですか?」「私は次の予定があるので、これ以上対応できません!」「先生の指示がないと動けないし…」等々。この想定外の事態の対応に困っている様子。ベッドの近くに看護師さんがいないので、おーい、そんなことより誰か私を温めてもらえませんか!?このままだと全身硬直して死んじゃいそうなんですけど!と心で叫びながらナースコールを探す。

 しばらくして看護師さんに呼ばれたらしく、A先生が様子を見に来られた。ベテラン看護師さんに、早く対応を決めてほしいと責められているような会話が聞こえてくる。過呼吸で声を出すのも苦しかったが、手足が冷えて硬直してきていること、胸が苦しいことをA先生に訴える。するとA先生から、心電図を撮ること、さらに採血をする指示が出た。え?体が冷たくなって硬直してきているのに、冷たい磁石をあちこち付けて心電図? 硬直して腕も動かせないのに採血? 私はただ身体を温めてほしいだけなのに!! ガクガクと震えながら必死に「少し待ってください!」と訴えたが、やはり却下されてしまった。心電図の冷たい磁石を付けられながら、私の中で何かがプッツーンと切れる音がした。

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