第22話 ICUの恐怖①

 ICUのベッドで一晩静かに休もうと思っていたが、着いてすぐ、そうはいかないということに気がつく。とにかく異常に機器類の音がうるさいのだ。点滴の取り換えを知らせるピーピー音、自動で血圧を測るブザー音、ナースコールのメロディ音。それらに加えて一番ひどかったのが、心拍の変化を知らせる(らしい)ピコンピコンというアラーム音で、機械が壊れているのか!?と何度も疑ってしまったほど、ひっきりなしに鳴り続けている。アラームが鳴ると看護師さんが止めに来られるのだが、こちらのアラームが止むとすぐに別のベッドで鳴り始め、またすぐ別のベッドで鳴り始めるという調子で、とにかくずーっと鳴り続けている。一人のベッドで何種類もの機械音を出しているというのに、それが9人もいたら9倍! ましてや看護師さんの手も足りず、あちこち鳴りっぱなし。「ゆっくり休んでください」と言われても、「ムリです!」と叫びたくなる状況だった。

 さらにもうひとつ、気が休まらない要因があった。隣のベッドの患者さん(男性)がひどいいびきと寝言を言うかただったのである。一般の病室は男女で分かれているが、ICUは男女混在らしく、隣もその隣も、姿は見えないが男性の患者さんだった。隣のかたは声を聞く限り60~70代、自宅で意識を失ってICUに運ばれたらしく、看護師さんにベッドで一晩安静にしているようにと言われていた。このおじさん、寝るとすぐいびきが始まり、いびきが収まると大声で(かなりはっきり)寝言をしゃべるのである。普段だったらやれやれと笑ってやり過ごせるようなことだったが、この状態が一晩中隣で続くと考えると気が重かった。試しに、反対側の壁を向いて指で耳栓をしてみたが、なぜか耳元でおじさんの寝息が聞こえてくる。何度耳をふさいでも、同じベッドで並んで寝ているのか?と思うほど耳元近くで寝息が聞こえてきて、気味が悪くなってしまった。今考えると、この時すでに聴覚過敏の症状が始まっていたんだろうと思う。

 心の中で一人悶々としながら悪戦苦闘して数時間。これはもう一晩中寝られないかも…というあきらめの気持ちが湧き始めていた。ようやく看護師さんが来られた点滴交換のタイミングで「すみません、機械の音がうるさくて寝られないんですけど…」と訴えてみる。看護師さんは申し訳なさそうに、「今日はいつもより(人数もいて)音が鳴っている気がします」とのこと。ダメもとで、「あのぉ、元の病室に戻るのは難しいでしょうか?」と聞いてみたが、やはりそれはできないという返事だった。

 そのあとしばらくして、「耳栓がありましたので持ってきました。これで休めるといいんですけど…」と先ほどの看護師さんが簡易の耳栓を渡しに来てくれた。忙しい中で探してくださったことがありがたく、お礼を言って耳栓を受け取る。ぷにぷにした小さな耳栓を手でつぶして耳に入れる。完全に音を遮断するのは難しかったが、聞こえる音量は少し小さくなった気がした。

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