第11話 1回目の手術当日~手術前

 手術当日の朝。いつ準備するんだろう?とそわそわしていると、A先生が「体調はいかがですか?」と様子を見に来られた。看護師さんが全身麻酔か部分麻酔かわからないと言っていたので直接A先生に確認すると、全身麻酔でやりますとのこと。検査の時と同様に、術後は穿孔部の止血が確認できるまで足は動かさないように、といった注意を受けたように記憶している。病室を出る際、手術は13時からの予定だが、12時20分には準備を済ませて手術室に入るように、という指示を看護師さんに伝えていた。

 ベッドの上で手持ち無沙汰のまま待っていると、日勤の看護師さんが来られ、ICUから戻るときにベッドが変わることもあるので、荷物をまとめて移動できるようにしておいてください、と言われる。まぁ仕方ないかとベッド周りを片付けてまた待っていると、別の看護師さんが手術の着替えを持って来られた。検査の時と同じ、高着圧の手術用ハイソックスをはき、長めの甚平のような手術着に着替える。なぜか手術着のサイズがLサイズでぶかぶかだったが、大は小を兼ねると考えてよしとする。

 検査入院の時と違い、今回は尿管を入れて自動的に排尿できるようにするとのこと。手術室に行く前に、病室で処置を済ませるとのことだった。初めてのことで少し動揺したが、前回の検査入院では排尿のたびに周囲に気を使ったので、それがないだけ気は楽かもと思い直す。

 尿管の処置の前にとトイレを済ませて待っていたが、12時を過ぎても誰も来ない。12時20分に手術室に入るということは、もうそろそろ準備した方がよいはず。ベッドの上でナースコールをするべきかどうか時計を見ながら悩んでいると、フロアの看護師長さんが担当の看護師さんと一緒に病室に駆け込んできた。「すぐに手術室へ移動しますので準備してください!」とのこと。何か行き違いがあったのだろうか? 担当看護師さんと一緒に、急き立てられるままバタバタと荷物を抱えて病室を出た。手術室まで歩いて向かう途中、「お待たせしてすみませんでした」と謝られる。表情の硬い看護師さんに何があったのか聞くわけにもいかず、「いえいえ」とお茶をにごす。気になっていた尿管の処置のことを聞くと、手術室でやりますという返事だった。

 たくさんのモニターや機械が置かれた手術室は、検査入院のときより広い印象だった。手術室に入る手前のモニタールーム(?)の中にいたC先生と目が合ったので、小さく会釈をする。部屋の中央の一段高くなったところに手術台があり、ステップで上るようになっていた。大勢のスタッフさんがいて「よろしくお願いします」と声をかけられる。「お願いします」と答えつつ、ステップを上って自分で手術台に横になった。付き添ってくれた看護師さんにメガネを渡すと、視界はぼんやりとして人の顔が判別できなくなった。

 手術台の上で、ここからはまた、まな板の上の鯉だなと腹を括る。今回も軽快なジャズっぽいBGMが小さく流れている。深呼吸して目を閉じると、すぐに準備が始まった。

 身体のあちこちに慌ただしく心電図の磁石やら測定の器具が付けられていく。顔はよく見えないが、B先生と思われる声で「麻酔入りまーす!」という合図が聞こえ、身体の中に冷たい薬剤の感触が広がった。続いて口の中に酸素の管らしきものが入ってきた。が、管の挿入が中途半端だったのか(?)上手く呼吸ができない。異物感で思わず吐き戻しそうになったが、状況はまったく変わらず。目を開けて周りを見るが、スタッフ全員が忙しく準備をしていて、誰も私のことを見ていない。マズい、何とかしてこの状況を伝えなければ!声が出せないので手を動かそうとしたが、すでに麻酔が効いていてピクリともせず、ならせめてと足を動かそうとしたが同じだった。そうこうしているうちに、呼吸がどんどん苦しくなっていく。2度3度と吐き戻しそうになったが、異変に気づいてくれる人はいなかった。もう限界!誰か気がついて!と心で叫んだとき、ピコンピコンピコン!と機械のアラームが鳴り始めた。そこでようやくスタッフが駆けつけて、喉から酸素の管が抜かれた。危なかった!手術前に心停止するところだった!

 そのまま再び管が入れ直されたあと、麻酔で意識が遠のいた。

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