第9話 入院準備 その②

 発病によって予定していた夏休みの帰省ができなくなってしまったこともあり、経緯を長野の実家にいる姉に連絡すると、心配してお見舞いグッズを送ってきてくれた。ハーブティーやカップスープ、蒸気のアイマスク等々、どれも検査入院のあとのダメージ回復にすごく効果があったので「今年度のベストギフト大賞確定!」とお礼の連絡をする。帰省が流れてしまったので、お盆の墓参りはオンラインで同行させてもらった。今はケータイさえあれば、どこでも簡単にビデオ通話ができるのでありがたい。ケータイに映る先祖の墓に、手術の成功と病の回復を祈った。

 都内で一人暮らしをしている娘には、昔から馴染みの深い永福町の大宮八幡宮に詣でてもらい、「病気平癒御守」を入手してもらった。こちらもオンラインでビデオ通話しながらお参りする。ちょっと前なら思いもつかなかったが、今は本当に便利な世の中である。

 入院の前週、手術についての説明を家族にしてくださるということで、夫と一緒に脳神経外科の外来に出向いた。診療の前に、PCR検査用の唾液を採取して専用窓口に提出する。思ったよりかなりの量を提出しなくてはならず、トイレで唾液を出すのに四苦八苦する。外来では大病院らしく、まず自動受付機に診察券(カード)を通して小型の呼び出し機を入手する。順番が来ると呼び出し機が鳴って「〇番の診察室にお入りください」といった指示が液晶画面に表示される。予定時間より少し遅れて呼び出し機が鳴った。

 この日対応してくださったのは、C先生だった。挨拶したときの声と全体のシルエットで、ああ、先日検査室で声をかけてくれたのはC先生なんだなと気がつく。A先生、B先生よりも年上に見えるので(40代?)、おそらくこのC先生が手術の責任者に違いない。

 イスに座ると、さっそくパソコンのモニターに検査で撮影した脳の血管画像を映し出し、治療についての説明をしてくださった。説明の内容はB先生に聞いた通りで、1回目は静脈からのコイル塞栓、2回目は動脈へのステント留置、状況によって数か月後に3回目も検討、とのこと。検査入院の際は、翌々週の月曜日入院、火曜日手術とのことだったが、病院の事情で火曜日入院、水曜日手術に日程を変更したいというお話だった。「コロナもあって今、病院がスタッフ不足で、緊急の受け入れもストップしている状況なんです」とC先生。夫が「今後また日程が変わる可能性がありますか?」と質問すると、「それは大丈夫です」という返事だった。最後に念のため、「あの~、執刀(切らないが)してくださるのはC先生ですか?」と確認すると、「そうです」との返事。先に分かって少しホッとする。病院の大変な状況を考えて内心不安になっていたが、帰宅途中「コロナで手術したくてもできない患者さんがたくさんいるらしいから、こんなに早く手術が受けられるだけでもラッキーだよ」と夫に言われ、それもそうだなと自分を納得させたのだった。

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