第7話 検査入院 その④

 点滴の交換、血圧の測定、そしてベッドでの排尿と、夜間も一定の間隔で処置が続き、ウトウトはするけれどよく眠れないまま朝を迎えた。朝の回診で、安静にしていた穿孔部の止血もチェック後OKとなる。点滴を抜くと、ようやくトイレも自分で行けるようになった。着替えを済ませると、早くも退院の準備が始まった。

 退院前に検査結果の説明に呼ばれる。対応してくれたのは若いA先生ではなく、同じ脳神経外科のB先生だった。A先生より年上っぽいが、それでも30代前半に見える。前日の検査にもいてくださったようなのだが、何しろ目が悪いので顔を憶えていなかった。

 検査の結果、正しい病名が判明。「右内頚動脈海綿静脈洞瘻(みぎないけいどうみゃくかいめんじょうみゃくどうろう)」といい、内頚動脈の一部に穴が開き、そこから海綿静脈洞という場所を介して脳内の静脈に血液が逆流し、耳鳴りや頭痛が生じているとのこと。このまま放置していると脳出血や失明を引き起こす危険があるので、緊急ではないが準緊急扱いで手術の日程を決めたい。手術はカテーテル手術で、1回目は静脈への逆流を止めるコイル塞栓術、2回目は穴の開いた動脈へのステント留置術、それでも改善しない場合は3回目も検討していく、という説明だった。

 1回目の手術は早い方がよいということで、翌週か翌々週のどちらかが候補だが、翌週はB先生がお休みで不在ということで、翌々週に入院~手術の日程はどうかと提案された。いずれにしてもコロナ禍の影響でスタッフが揃わず、手術日は専門の麻酔科医がいないので脳神経外科のスタッフで対応する予定、という話だった。検査の影響で全身が重だるく、加えて寝不足と疲れで話を聞くのが精いっぱい。質問をする余力はなかった。

 B先生も忙しいらしく、慌ただしく治療の説明を終えると、次は手術の承諾書類を机に広げて手続きの話に移った。手術のリスクや合併症の可能性は数パーセントと低いが、ゼロではない。が、何かあった場合は専門のチームで対応しますので大丈夫です、といったようなお話だったと思う。署名が必要な書類がいくつも渡されたが、家に帰ってからの準備でよいとのこと。説明を聞きながら、早く家に帰りたいな…と考えていたのだった。

 検査入院を気楽に考えていた私は、家までひとりで帰る予定にしていた。入院の会計は、仕事先で加入していた保険組合に「限度額認定証*」というものを申請中だったので、当日の支払いはなく、会計窓口で明細の控えをもらって帰宅することになった。家族への手術に関する説明は、翌週改めてしていただくことに。B先生は翌週はお休みでいないということで、B先生と同じく脳神経外科のC先生が説明してくださるとのこと。前日の検査の時に声をかけてくれたのがおそらくC先生なんだろうなと推測する。

 退院の準備に時間がかかり、気がつくと昼近くになっていたが、残りの気力を振り絞り、病院からタクシーに乗って自宅へ帰ってきた。


*「限度額適用認定証」・・・健康保険に加入している人が高額な医療費の支払いを抑えるために利用できる制度。事前に申請して医療機関に提示することで、窓口における医療費の支払い額を自己負担限度額までに抑えることができる。

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