第6話 検査入院 その③

 検査室に行く時と同じく、ストレッチャーで病室へ戻る。が、戻るときは全く別人の気分だった。造影剤の影響なのか麻酔の影響なのか、全身が重く、身体のだるさが半端ない。病室のベッドに戻ったときはストレッチャーの揺れで気持ちも悪くなり、看護師さんの声かけに返事をするのもやっとというグロッキー状態だった。看護師さんによれば、4時間ほど安静にして止血が確認できれば、少しずつ足を動かせるということだった。

 検査に行くまでは私一人だった病室に、戻ったときは2人の患者さんが入室していた。が、カーテンで完全に仕切られているので、看護師さんとの会話の様子で気配を察する程度である。2人の患者さんは私のいるベッドの反対側に並んで入院されていた。そのうちの一人の患者さんがしきりに咳をしている。病院内なのでまさかとは思うが、コロナ禍真っ只中なので、あまりよい気持ちはしない。同じことをもう一人の患者さんも思っていたらしく、担当の看護師さんに、小声で「隣のかたは大丈夫ですか?」と聞いている声が漏れ聞こえてきた。看護師さんの声は聞き取れなかったが、とりあえず大丈夫らしい。

 ベッドで身動きもできずぐったりしていたが、点滴は続いている。しばらくしてトイレに行きたくなったのでナースコールをする。「トイレはどうしたら?」と聞くと、「明日の朝、先生に止血箇所の確認をしてもらうまではベッド上でしていただきます。」とのこと。大きな塵取りのような形の容器をお尻の下に差し込んで、そこに排泄するらしい。ガーン! カーテンで仕切られているとはいえ他の患者さんもいるので躊躇したが、他に方法がないのでお願いする。看護師さんは慣れているらしく、容器をセットすると「終わったらナースコールしてくださいね」と言って病室を出て行かれた。やれやれ、これが入院ということかと情けなくなる気持ちを納得させ、排尿を済ませる。朝まで何度トイレを頼むことになるのか、気が重い。終わってナースコールをする。嫌な顔ひとつせず、テキパキと処理してくれる看護師さんに頭が下がる。本当に大変なお仕事である。

 夕食は通常の病院食が出されたが、まだ起き上がってはいけないということで、ご飯はおにぎりになっていた。全身がだるく食欲はなかったが、少しだけでもと看護師さんに促され、ベッドを40~50度の傾斜にしてもらい、少しずつおにぎりをかじる。時間をかけて何とか1個を食べ終え、力尽きた。

 夜8時を過ぎたころ、突然看護師さんがバタバタと病室に入って来られ、向かい側の患者さんに「今から病室を移ります!」と伝えているのが聞こえてきた。例のしきりに咳をしていた患者さんである。その後は患者さんの移動、さらにベッドスペースだけでなく、トイレや洗面台を猛スピードで消毒している音がカーテン越しに聞こえてきた。えええ?やっぱりコロナに感染してたの?なぜこの病室に?頭の中がクエスチョンだらけになったが、カーテンの向こうで見えない看護師さんに声をかけるのもためらわれる。きっと後で説明があるだろうと思っていたが、結局朝まで何の説明もなかった。真相はいまだ闇の中である

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