第4話 検査入院 その①

 入院の日はバスで病院まで向かった。最寄りの駅前から病院行きのバスが出ていて、乗車して10分程度で着くのでとてもありがたい。バス停まで息子に見送ってもらい、荷物も少ないから一人で大丈夫と言って別れる。コロナ禍なので、病院に行っても家族は病棟の入り口までしか入れないと聞いていた。

 病院の入院窓口で必要書類を提出したあと、エレベーターで指定された5階病棟へ向かう。ナースステーションに受付でもらったファイルを提出し、ガラス張りの待合ロビーで待つ。5階からの景色は見晴らしもよく、開放感があった。ここが病院じゃなくホテルだったら居心地いいのにな、などと考える。しばらくすると担当看護師さんが来てくれて、入院についての説明のあと、身長・体重を測定し、病室へ案内された。

 病室は4人部屋だったが、その部屋は私以外に患者さんはいなかった。「貸し切りですね」とのん気に言うと、「このあと入院されるかもしれませんが、今はそうですね」と看護師さん。病室には入り口近くに広めの専用トイレと洗面スペースがあり、どちらも非接触で水が流れる最新の設備で、ここが病院でなければ本当にホテルのようだった。各ベッドの周囲はそれぞれ明るいカーテンで仕切られていて、プライベートが確保されるようになっている。コロナ禍でもあり、カーテンは常に閉めきりになっている様子だった。

 荷物を備え付けのロッカーに仕舞っていると、看護師さんが「入院診療計画書」という1枚の紙を持ってきて入院中の流れを説明してくれた。それによると、検査の前に点滴を始めるので、それまでに着替えなど準備を済ませるようにとのこと。「Ⅴゾーンの剃毛は済んでますか?」と聞かれて、「え?まだですが・・」と答える。足の付け根からカテーテルを通して検査すると聞いていたのでどうするんだろう?という疑問はあったが、特に何も言われていなかったので何の準備もしていない。看護師さんに「シェーバーを持ってきますので、シャワー室で処理してください」と言われ、内心「急に言われても、シェーバーなんて使ったことないし、どうしよう?」と焦る。が、グズグズしている時間の余裕はない。腹をくくってシェーバーの使い方やらシャワー室の使い方やらを教わり、バタバタと準備を進めた。その後は着物のような手術着に着替え、手術後のむくみを軽減するという高着圧の手術用ハイソックスを渡されて着用する。言うまでもなく、下着は全部脱ぐ。

 着替えたあとは点滴が待っていた。正直注射は苦手だし、点滴は生まれて初めてなので内心ドキドキしていたが、点滴の注射に来てくれたのがベテランぽい看護師さんだったので少し安心する。針を刺すときにチクッとした痛みがあったが、無事に左手首に点滴が装着された。病院を舞台のドラマで点滴を押しながら歩いている患者さんのシーンを見たことがあるが、自分もついに点滴を押して歩く側になったのかと何だか感慨深い。

 検査の前に、先日救急外来で対応してくれた若い医師(A先生)が病室に来て挨拶してくれた。他にも同行の医師がいたと思うが、色々と緊張していたのであまりよく憶えていない。検査は部分麻酔で行うこと(意識がある状態)、大体2時間程度で終わる予定だが、その後は穿孔部が止血するまで足を固定した状態で安静にすること等、簡単な説明があったような気がする。執刀(カテーテルだから切らないけど)するのは先生ですか?と確認したかったが、慌ただしく行ってしまったので聞き逃してしまった。

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