第2話 発病~そしてMRIの旅

 異変に気づいたのは、2022年8月初旬の夜だった。

 TVを消してベッドに入ると、ブオンブオンと小さく音が鳴っている。最初は扇風機を消し忘れたのかと思い確認したが、そうではなかった。ようやく自分の耳の奥で音が鳴っているとわかったのは、音の出どころを探してしばらく部屋をウロウロした後だった。

 7月下旬、ついにコロナウイルスに感染してしまい自宅療養を続けていた私は、一応届け出をと電話で連絡した保健所職員さんの「近くのかかりつけ医に届け出をしてください」という言葉を真面目に受け止め、病み上がりの身体で猛暑の中、近くの内科へ届け出に出かけた。発症に気づいたのはその日の夜だった。右耳の奥の方で絶え間なく鳴り続けている音に少し嫌な予感がしたものの、昼間ちょっと無理しちゃったせいかも・・と気楽に考え、寝て起きればきっと耳鳴りも消えていると信じて床についた。

 朝起きれば元通りに・・という期待もむなしく、翌朝もザーザーなのかヒューヒューなのか表現のむずかしい耳鳴りは続いており、のん気な私もこれはちょっとマズい状況かも・・と病院へ行く決心をした。

 耳鳴りといっても時間が経てばおさまる一過性のものではなく、心臓の鼓動に合わせてずっとザーッザーッと鳴り続けている。耳鳴りは右側の耳で聞こえていて、同時に頭の右側に圧迫されるような鈍痛が生じている。これは耳鼻科で診てもらうべきものなのか、脳外科で診てもらうべきものなのか? ただ、「耳鳴りだから耳鼻科」という単純な話ではないような気はしていたので、「耳鳴り」「頭痛」で色々とGoogle検索して調べてみた。調べてみて素人なりに得た結論としては、「脳の血管に問題がありそうだが、MRI(核磁気共鳴画像法)検査をしないと原因はわからなそう」ということ。そうと決まれば早いに越したことはない。さっそく近隣でMRI検査を受けられる病院(脳神経外科)を探し、その日(発症翌日)の夕方に検査を受けに行った。

 病院で症状を説明し、20分ほどのMRI検査を受ける。検査台に寝た状態で、頭の周りのドーム状の機械が撮影する。ヘッドホンを着けていてもガンガンとかなり大きな音がするが、ここはじっとガマン。その後しばらく待って診察室に呼ばれた。

 撮影した脳の綿みたいな断面画像を見ながらの医師の説明は、「脳に問題ありません」というもの。「あの~、血管の状態を見る画像はないんでしょうか?」と聞いてみると、「血管の画像はMRAを撮らないとわかりません」という返事。え?MRAって何?MRIとどう違うの?と心で問い返しつつ、MRAというのを撮れないか聞いてみると、立て続けには撮れないのでまた9月に来てくださいとの返事。MRIとMRAの違い、先に言ってほしかったよ! 自分の無知さを呪いつつ、がっかり感をあまり顔に出さないよう気をつけながら、溜息とともに帰途についたのだった。

 今度こそMRA(磁気共鳴血管画像、というらしい)を撮ってもらわなくてはと、夜のうちに別の病院を検索し、翌朝の診療開始時間に合わせ病院に向かった。症状を説明し、MRA画像(ここ重要!)を撮ってほしいと話すと、医師はにこやかに「頑固な肩凝りに出る症状ですよ」と言いつつも、「念のためMRAを撮りましょうか」と応じてくれた。よかった。昨日と同じく20分ほどの検査のあと、再び診察室へ。今度は血管の映し出された画像を見ながら「少し気になるところがあるので、大きい病院で詳しい検査を受けてください」と説明される。血管画像の周囲にある、もやもやした影のような箇所が怪しいらしい。医師から、紹介状を書くので週明け取りに来るように言われる。

 翌日土曜日、週明けまで待てず、電話で昨日の医師に確認を取り、紹介状をもらいに行く。「耳鳴りと頭痛でよく眠れない」と話すと、ちょっと同情してくれたのか、紹介先の病院に電話をして、その日の診察の予約を取り付けてくださった。ありがたい。優しいお医者さんだった。 

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