〝月が沈むまで〟という期限付きなんてぶち壊してやる

雨宮 苺香

- Episode -


「月がまるいね」



 深夜。幼なじみとのコンビニ帰り。

 ぶらぶらと散歩をしていると、空には雲1つなくて明るく丸い月が俺らを見下ろしていた。



「そうだな。……あ、もしかして俺への告白だった?」


「ばか! それは『月が綺麗ですね』でしょ」



 ばかって。そんな勢いよく否定しなくてもいいだろ。



「間違えただけだろ? あー彼女欲しい」


「え? 彼女欲しいの?」



 欲しいんだよ。お前みたいに無邪気に俺の顔を覗き込んでニコって笑ってくれる彼女が。



「なんだよ。悪いかよ」



 彼女は「ふ〜ん」と少しだけ先を歩いてこっちを振り向いた。



「じゃあ、今日だけ、この月が沈むまで彼女になってあげるよ」


「……は?」



 いきなり何言い出すんだ!? からかうにも程があるだろ。



「な〜に? 私じゃ不満だって言うの?」



 そんなわけない。俺はずっと。君をずっと……。

 意気地無しの俺は手を固く結んで言葉にはならなかった。



「なんか言ってよ。ばか」



 拗ねるように彼女が俺を置いて歩いていく。



「そんないい加減な提案するからだろ?」



 焦りながら彼女の背中を追ってそう言うと、彼女は振り向いて「べー」とあっかんべーをしていた。

 声に出しながらする幼さとか、あどけなさとか、行動1つで俺のことを魅了する彼女。

 どうしたらいいのかと、右手に提げたコンビニ袋を揺らしていると彼女が俺の左腕を掴んだ。



「なんだよ!」


「いいの? 今日だけなんだよ?」



 俺の腕を抱きしめながら上目遣いでそう言う彼女は意地悪な顔をしていた。

 あームカつく。なんで今日だけなんだよ。



「ずるいな、お前」


「悪かったね」


「じゃあ今日は月が沈むまでゲームな」



 俺の言葉に「なにそれ」と突っかかる彼女に俺は意地悪をし返す。



「お前が言ったんだろ? 月が沈むまで彼女になってあげるって。お前の得意なゲームで俺の方が勝ったらこれからずっと彼女な」



 長年の片想いが終わるか、満月が先にかけるか。今夜はきっと長く感じる。

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〝月が沈むまで〟という期限付きなんてぶち壊してやる 雨宮 苺香 @ichika__ama

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