3. 招待状をもらってしまいました
寮生活を始めるという言葉に嘘はなかったようで、寮の入口までロイヴァートとシアンはついてきた。翌朝の待ち合わせ時間を一方的に通達され、彼らはそのまま男子寮へ向かっていった。
寮の談話室に入ると、読書をしていたケイトと目が合う。彼女の座るソファーまで行くと、ケイトが横に座り直して空きスペースを確保してくれた。
おとなしく座ると、案の定、嬉々とした声が続いた。
「ねえ。やっぱり、帰りも会長に送ってもらったの?」
「……うん」
「過保護だね」
「……そう思う」
付き添われて帰るなんて、どこの幼児か。一人で帰れますと言ったのに、仕事が終わるまで部屋で待つように言われたのだ。
(いや、変な言いがかりに巻き込まれないように配慮してくれているのは、わかっているのよ? でも限度があるでしょ?)
そんなに自分は危なっかしいだろうか。確かに世間知らずかもしれないが、これでも祖国では成人の仲間入りを果たしたのだ。自分の問題ぐらい、自分で片付けられる。多勢に無勢だと難しいかもしれないが。
太ももに手を載せて渋面を作ると、ケイトが困ったように笑う。
スカートのポケットに入れたままの手紙の感触を確かめながら、ディアナは先ほどの手伝いについて報告を始めた。
*
「ディアナ・ミルレインさんはいらっしゃるかしら?」
鈴を転がしたような声に、クラス中の視線が一箇所に集まる。ドアから悠然と歩いてきた女子生徒は桃色の髪をふわりと背中に払い、焦げ茶の瞳がクラスを見渡す。
髪の色ですぐにわかったのだろう。すぐに視線がぶつかり、ディアナは片手を挙げて、のろのろと席を立った。
「……あの、私がそうですが」
自己申告をすると、腕章をつけた女子生徒が優雅に微笑む。静かな足取りで近づいてきたかと思えば、一通の封筒を差し出す。
「あなたに渡したいものがあるの。どうぞ受け取って」
白地に金色の縁取りがされた封筒だ。その中からぶ厚いカードをそっと出し、ディアナは首をひねった。
「……招待状……ですか?」
「来週を楽しみにしているわ。では、ごきげんよう」
そう言うなり、女子生徒はくるりと踵を返して退室していく。残されたのは水を打ったような静寂の後、わっと沸くクラスのざわめきだった。
戸惑うような声が囁く中、呆然としているディアナの元にケイトが駆け寄る。
「ちょっと、ディアナ。アンゲリカ様からお茶会の招待状をもらったの?」
「お茶会?」
何のことだ、と視線で問うと、ケイトはため息をついた。
「そっか、転入生だから知らないのね。茶摘みの時期に、上級生から招待を受けた下級生がお茶会に参加するの。招待されるのは大抵、特に気にかけてもらっている下級生よ。ちなみにお茶会は男子禁制」
すらすらと説明され、ディアナは疑問を持つ。
「ケイトは招待状をもらっているの?」
「私がもらっているわけないじゃない。いい? お茶会って特別なの。よほど親しくないと招待されるはずがないし、副会長からのお誘いなんてレア中のレアよ」
興奮した様子でケイトが人差し指を突き出し、ディアナは曖昧に頷く。
「さっきの人、副会長だったの……」
「知らなかったの? 元老院長官の孫娘にして、ヴァイスナハト学園の学生議会副会長。容姿端麗、頭脳明晰。皇太子殿下からの信頼も厚いと聞くわ」
腕章をつけているから学生議会のメンバーだとは思っていたが、副会長とは思っていなかった。厄介な人物に目をつけられたのかもしれない。
(そんな人からの招待状……好意的なものであればいいけれど、そんなわけないわよね)
女の勘が告げている。
これはおそらく、決闘状に準じるものだ。よく言えば召喚状。どちらにせよ、関わり合いたくない類いのお誘いだ。
「……どうして私、招待されたんだろうね?」
「そんなの、私が知るはずがないじゃない」
ごもっとも。
ディアナは静かにカードを封筒に戻し、嘆息した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。