第100話 戦時内閣

 三人のAI薫子の合議は凄まじかった。


 光速突破のための課題や壁を次々と突き破り小型ロケットに初歩的なシステムを搭載できるまでになっていた。

 

 その頃成立した戦時内閣は薫子の研究の成果の軍事利用を考えていた。


 具体的には他国よりも早く月や火星、木星の衛星などへロケットを到達させ、都市建設を視野に入れた開発を加速するためである。


 薫子の研究が実用化すれば太陽系内はどこでも数時間で到達できることになり、他国に対する軍事的アドバンテージとすることができるからだ。


 したがってこの先の研究は論文になることはなく、新設された航空宇宙省の管轄とされ、国家予算の3割にも達する莫大な予算が投入されることとなった。


 薫子は政治的思惑などは無縁にただ、純粋に新しい恋人対消滅ワープシステムに尽くした。

 

 それにしても小学校が終わって午後からの時間だけでこれだけのストーリー反ダークマター推進システムを書き上げる薫子はすごいのだろうな。

 蒼は純粋にそう思った。

 そして今日も薫子を研究室に迎えにいく。

 彼は父が亡くなってからも毎日トレーニングを欠かさなかった。

 軍人になるつもりはないが、最近薫子の周りで危ない事件が多くなったような気がする。

 薫子は僕が守らなくては、と考えていたからだ。

 

 実際、本人やその周辺は気がついていないか、薫子は何度も命の危険が迫り、誘拐の企ても複数行われている。

 戦時内閣直属の諜報部員が常に何人か張り付き、行き帰りも陽葵の防弾仕様のリムジンが戦時政府の費用により陰でチャーターされている。

 表向きは仲良し三人組が一緒に帰る、というほのぼのしたものであったが。


 陽葵は大好きな薫子といつも一緒に帰れるので嬉しかったようである。


 そしてその初号機が串本ロケットセンターから打ち上げられたその日、プ連はNATOに対して宣戦布告を行った。

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