第96話 父の戦死

 薫子たちが4年生になってすぐ大事件が起こる。


 海軍海兵隊長である蒼の父の戦死である。

 海兵隊の強襲揚陸艦荒波とプ連の巡洋艦アントノフ間に小規模な銃撃戦の後、プ連巡洋艦との接触により荒波が沈没したのである。

 艦長である平二等海佐はクルーの避難を優先した結果戻ってくることはなかった。

 遺体も戻らず、市ヶ谷に合祀された。


 蒼は気丈にしていたが、この日を境に自衛軍入隊希望をやめた、祖父の跡を継いで漁師にでもなるかな、とボソリと言った。


 薫子はゼロ・ポイントフィールドに蒼の父の死亡の記録がないことを知っていたが、これは伝えるべきではないと直感し、蒼を抱きしめるだけにした。

 自分は冷たいのかな?とも思ったが生まれてからずっとこうであり、完全な自然体=冷徹であることも理解していた。


 その頃から街角からパンが消えた。

 日本国も小麦の増産を始めてはいたがいまだ食糧自給率は50パーセントにも満たない。

 最近は中亜からの輸入も途絶えがちになり、多くはオーストラリアやアメリカなど遠方からの輸入に頼ることとなり、パンやお菓子の値段は10倍に高騰した。


 一方で反水素の保管容器は当初巨大倉庫ほどのスペースを必要としていたが、コンビニ面積くらいとなり、自動車一台分ほどに小型化し、そしてとうとう少し大きめの壺程度の大きさまで実現できるまでになっていた。

 これもリチウム電池を大幅に超え、自由な形状に加工が容易な日本独自の先端技術、軟式全固体電池の実用化のおかげである。


 反水素容器の小型化に成功した薫子は独立した研究室を与えられることが決まった、しかし夜に眠れないことが多くなってきた。

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