第94話 財閥令嬢 川嵜陽葵(かわさきひな)

 明石市立航空宇宙大学附属小学校に入学したのは幼稚舎では平蒼たいら、あおいだけだった。

 彼の父母が軍属ということもあったが、幼馴染の薫子に強く誘われて進学を決めたという経緯もあった。


 なにせ薫子と蒼は同じ病院で同じ日に生まれた筋金入りの幼馴染だったからだ。

 薫子もほぼ蒼のお姉さんのつもりでいた。

 (蒼は自分が兄だと考えてはいたが)


 蒼はこの時点では海兵隊隊長の父に憧れ、いずれは自分も海上自衛軍に入るつもりでいた。

 物心ついた頃から父にいろんな体術他の訓練を受けて、世界情勢や地政学リスクなども貪欲に学んだ。


 薫子はなぜかその方面の知識も豊富で、蒼は便利なデータベース的な付き合いが普通になっていた。


 誰にでも優しい薫子であったが、なぜか蒼だけには異質な態度をとる。


 会うたびに抱きつき、頭をグリグリする。

 いじめか?と思えるレベルなのだが蒼は特に嫌がらなかったし薫子も「これはやったらアカンやつ」とも感じなかった。

 それが後日「美しく粗暴な薫子」という不当な評価をさせることになるのはまた別の物語で。


 薫子たちと同じクラスにはまた別の意味で異質な少女が在籍していた。


 陽葵ひなである。


 本人は特に何も言ったりアクションするわけではないがオーラとでも言う複数のバリアがあり、他のクラスメイトは近寄らなかった。


 彼女は明石市が誇る世界的財閥、川嵜グループ総帥川嵜四郎の孫であったからだ。


 送り迎えに自動運転車のリムジンが時間通りにやってくるし、当然ながら陰日向に護衛もつく。


 とても声をかけられる雰囲気はない。


 ところがこの二重三重バリアをこともなげにぶち破る爆弾少女が存在した。


 我らが薫子である。



 「ひーなちゃん!おはよう!」


 いつものように突進して陽葵に抱きつく。


 陽葵はこんな体験は初めてだ。

 驚きと共にドキドキする。

 

 初めのうちは護衛の方々も一瞬身構えたものだが、最近は「お嬢様にも仲良しの御学友ができた。」と涙を流すレベルで喜び、ほのぼのとした風景を楽しむまでになっていた。


 薫子の自然体と魅了スキルはこんなところにも最大パワーを発揮する。


 こうして明石っ子仲良し三人組が成立した。

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