第92話 明石っ子薫子の日常

 こうして薫子の小学校生活は始まった。

 同年代の友達と大声ではしゃぎ周り鬼ごっこして遊ぶ。

 ゼロ・ポイントフィールドに愛された薫子にとってはこれも全て凄まじい学びであった。

 本人はもともと勉強、などと言う意識はなく、走り回りながら自然界の法則を感じ取り学び、社会生活や経済、法律の成り立ちの基礎を積み上げ、勝手気ままに走り回る同級生を見てブラウン運動と重ね合わせて大気圧や温度のエネルギーについて学ぶ。

 全ては完全なる自然体、しかし、身の回りのものは人間も含めて全て「波動エネルギー体」であることを知っている。

 算数の時間には2+2が本当に4なのかを検証し、国語の時間にはひらがなを考えだした過去の偉人の功績に感慨を深くする。

 こう言った薫子のスキル、実はかなり冷徹とも言えるが、第三者から客観的に観測すれば快活で面倒見も良く、友達から信頼されたよられ、憧れの的となる。

 賢いクレバーではなくスマートが故に誰一人友人を取り残すことなく平等に付き合え、妬み嫉み僻みの対象ともならない。

 そんな天は三物を与えたような天才となりつつあったのである。

 これは魅了、のスキルとも言えるかもしれない。


 薫子の学力であれば中学校高校に飛び級することも可能であったが、もちろん中学校に入っても薫子のスキルがあれば皆から可愛がられるだろうが、薫子にとっては自然科学その他の貴重な学びの場を奪うことになっていたであろう。

 そのあたりの薫子の父母の判断は的確であったと言えるかもしれぬ。


 ****


 一方で川嵜悟朗研究室での消えた友達陽電子と電子ちゃん探し、あのトラウマを克服するためでもあるが、こちらも精力的におこなっていた。


 一年間の間に川嵜悟朗教授との連名で発表した論文は複数に登り、世界中の研究者たちを慌しくしていた。


 消えた友達陽電子と電子ちゃん探しだけではなく、反原子、反中性子というまだ会ったことのない友達探しもしなくてはならない。


 薫子が6歳となった令和16年にはかなりのまとまった量の反水素も安定して生成できるようになっており西暦2000年代には加速器によりわずかマイクロ秒程度しか存在できなかった反物質も数秒、あるいは数分存在できるまでに研究が進んでいた。


 現代では1グラム程度まで安定して保管できるまでになっている。

 これも薫子がゼロ・ポイントフィールドから得た知識のかけらがきっかけとなっている。


 この反物質1グラムが対消滅した時に発生するエネルギー量はロケットブースター23個分にも匹敵するエネルギー量である。

 核融合発電所も実用化され何箇所か稼働を始めたところであるが、それがオモチャに見えるくらいのエネルギー量である。

 世界中が喉から手が出るほど欲しがっていることは想像に難くない。

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