第70話 幼稚舎幼児世界大戦 前編
令和15年3月17日
その日は静かに始まった。
渋谷園長は健康のための紙パックの黒酢ドリンクをすすっている。
「今日は朝から雨だわね、鬱陶しいなあ。」
右眼の眼帯をいじりながら不機嫌な表情をする。
そのうち若い保育士たちも次々と出勤してくる。
皆、この幼稚舎が凄惨な戦争の現場になるとは思っていない。
幼児戦士同士のプライドと居場所を争い、大切なものを守るための生き死にをかけた戦いがいま始まろうとしている。
****
戦場には兵員を乗せたマイクロバスがどんどん到着し、厳格な点呼を経て建物に送り込まれる。
中には降りるのを渋る者もいたが、最終的には降ろされて建物に送り込まれる。
ゾーネンブルーマ軍陣営、薫子・エバンス将軍は、全面衝突は避けられないと感じていた。
隣国のダンデライオン軍、エマ・藤原将軍と和平の道を探っていたが、不幸な小競り合いの結果抜き差しならないところまで来てしまったと感じている。
そしてそれはフィールド内で起こった。
両軍兵士の小競り合いの中、大事な友人が敵兵の攻撃で右腕を失ってしまったのだ。
激昂した兵士により反撃を受け、軍同士の全面戦争に突入したのだ。
薫子・エバンス将軍はやむなく攻撃命令を下す。
エマ・藤原将軍も命令を出す。
そうして幼稚舎園庭は生臭く、泥に塗れた戦場と化した。
そう時間が経過しない間に両軍とも50パーセントに迫る損耗率に達した。
軍隊において50パーセントの損耗は部隊の壊滅を意味する。
もはや泥沼化した戦場では際限なく争いがエスカレートしていく、、、
中には逃亡する兵士もいれば、笑いながらお腹を引き攣らせ倒れる者もいた。
もちろん攻撃をものともせず、敵に受けた攻撃に対して何も感じない猛者もいる。
満身創痍のはずなのだが、笑いながら両手を前に突き出し攻撃を続行する。
そのゾンビのような様子に敵兵は恐怖して逃げ出す。
泥水に塗れてうめき声をあげて倒れ込む兵士たち、まさに文字通り、それは地獄絵図であった。
****
渋谷園長は昼のコーヒーを淹れながらふと窓の外の惨状に気がつく。
「ふん、半分は生きてるか。」
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