よるの音色を探して
たい焼き。
よるの音色を探して
また、聞こえてきた。
時刻を確認するとちょうど0時で日付が変わったところだった。
この音はどこから聞こえてくるのだろう。
私はいつも仕事から帰宅すると、体型維持のためにウォーキングをしている。
基本的にはあまり遅い時間にはやらないようにしているのだけど、夏だけは気温が下がって少しでも涼しい時間に歩きたくて夜中に歩く。
そうして歩いているうちに、いつも同じ時間にどこからか何か音が聞こえてくるようになった。
最初は気のせいかと思ったけど、日に日にしっかりと聞こえてくるようになった気がする。
そして、その音は特定のルートを歩いているときにしか聞こえないこともわかった。
たまたまいつも歩いているルートが工事で歩きにくくなっていたので、いつもとは違う方へウォーキングをしたら0時になっても音は聞こえてこなかった。
今日もいつもと同じルートをウォーキングする。
日付が変わったとほぼ同時に音が聞こえ始めた。
私は立ち止まって、耳を澄ます。
それはどうやら何かを奏でているようで、高音と低音が心地よく耳に入ってくる。
……よし、行こう!
私は音の聞こえる方へと歩き出した。
周りをキョロキョロと見渡しながら、音色が聞こえる方へとどんどん歩く。
深夜の街は暗く静かで、街がまるごと寝てしまっているみたいだ。
野良猫すらも見つけることが出来ない。
そんなことを考えながら、どれだけ歩いただろうか。
かすかに聞こえていた音色は今ははっきりと聞こえる。
目の前のアパートから。
あぁ……ここから聞こえていたんだ。
心のどこかで、何か不思議なことが起こるかもしれないと期待していたのかもしれない。
そんなことあるわけないのに。
アパートからはたどたどしい旋律が聞こえてくる。
あ、つっかえた。
その瞬間、アパートからドンドンと壁を叩くような音が響くと旋律もピタリと止んだ。
時間を確認すると、0時30分。
どうやら、音の正体は深夜に30分だけ楽器練習している人だったみたい。
アパートの壁を叩く音は苦情か、はたまたタイマー代わりなのか……。
音色の正体に少し残念な気持ちを抱きつつ、私は来た道を引き返すのだった。
よるの音色を探して たい焼き。 @natsu8u
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