777文字で完結させる挑戦 第四回 深夜の散歩で起きた出来事
木村空流樹ソラルキ。
第1話 写真
娘が明日提出の課題作品がまだ終わっていないと言い出した。
「で、何を何したらいいの?」
母は少し怒っている。
「風景を20枚ほど取らないといけないの……。夜でも大丈夫。ママ暗いから着いて来てよ。」
デジタル一眼レフのカメラを娘は持ち上げた。
「近くをぐるっとするだけならいいわよ。」
母が部屋着から、ジーズに履き替えている。寒いので、コートを着る娘。玄関で靴を履き外出する。
高い所に月がある。
肌寒いので吐く息が白い。
「何を被写体にするの?」
「目に付いた物なら、何でもいい。タイトルは後で付けるつもりだから……。」
履修が終わったら簡単な写真集になるらしい課題。
娘はお月様にシャッターをきった。
「ぼやける……。シャッタースピードを上げてみるか……。」
数枚、立ち止まってお月様を取っている。
母は寒くて、足踏みをしている。
「こんな感じ……。」
ピントはお月様に合っているが、隣のビルは輪郭がぼやんとしている。一眼レフの特性をフルに使っている。
「いい感じではないの。」
数歩歩くと、街頭に照らされてもなお、暗闇からジュースの自販機が見える。
娘がまた足を止める。シャッターをきっている。
出来栄えはライトが出ているジュースの缶々にピントが合っていて、何処か異世界の匂いがする写真になりそうだ。
歩くとコインパーキングに車が停まっている。
シャッターをきる。一台の車が物悲しそうにコインパーキングの看板ライトに照らされている。
数歩で母が嫌な顔をした。
「ここを撮るの?」
娘は歩行者しか通れない小さな踏切をシャッターに納める。カンカンと赤い光が明滅する。
電車が通過した後も写真を撮っている。
「画面見せて……。」
娘が数枚の一眼レフの画像を見せた。
踏切の画像を母がまじまじと確認する。
「ああ、駄目だわ。この踏切の画像は全てカメラから消去して……。」
娘は何も言わず、頷いた。母は所謂、見える人である。
777文字で完結させる挑戦 第四回 深夜の散歩で起きた出来事 木村空流樹ソラルキ。 @kimurasora
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