第33話 謎は解けた!
「確かに辻褄は合ってるね。証拠が君の分析に有利なのは否定しないけど、でもほとんど推測じゃないか。殺害方法についてはどうなの?」
「そこは残念ながらダメ。頭を殴ったか、首に切り付けたか。出血性ショック死なのは確かだけど、首が見つからなきゃ本当のとこは分かんないよ」
「うーん。首で変わったことといえば、あとはライオンの毛がくっ付いてた事くらいかな」
「でも、それは当然だろう? ロカールの交換原理だよ。『二つの物体が接触した場合、一方から他方へ、その接触した事実を示す何らかの痕跡が必ず残される』(*注)
ピエロとB・Bは、ライオンのシンバを猫みたいに懐かせてた。
マジックボックスから舞台に登場するときにやってた、あのガォーと開けたシンバの口に頭を突っ込んでにっこり笑うのが、ショーのラストをかざる目玉だったからね。
シンバがB・Bにくっ付きすぎて、舞台の後で衣装から毛を取るのが大変……」
「そういうことか! それが最後のピースだったんだ」
私の大声に、モリアーティと五代目はビックリして椅子から転がり落ちた。
「そうか、だからコショーの瓶は空になっていたんだ。今、ようやく考えがまとまった。いろんな事実と矛盾しない仮説はこれよりほかにない。
喜びたまえ諸君、私はB・Bの殺害方法が分かった。こんな風変わりな事件に関わったのは初めてだ」
私は嬉しい時の癖で、両手を擦り合わせてにっこり笑った。
「ホームズさん、本当に? ハッタリじゃなく?」
「本当だ。五代目、携帯を貸してくれ、ワトソン君にかけたい」
驚くモリアーティに、ワトソン君を呼び出しながら私は言った。
「私の考えが正しいかは、結果を見て判断したまえ。ワトソン君、今どの辺だ?」
「今トレーラーハウスにいる、さっきまで警察がいて近寄れなかったんだ。
ライオンの檻に鑑識が入ろうとしたら、ライオンがひどく暴れて入れなくて、動物園に連絡して麻酔銃を持って来てもらうよう手配した。
でも動物園の都合で少し時間がかかるから、鑑識は一旦引き上げたところだ。」
「鑑識はまだライオンの檻は調べてないのか、それならたぶん首はそこだ。ワトソン君、胡椒の匂いを探すんだ。
黒兎、ピエロのトレーラーの近くか、ライオンの檻の近くで胡椒の匂いがするはずだ」
「ライオン ノ オリノ アタリデ、 アノ オンナノ ニオイ ト コショウノ ニオイガ マジッテ シテル。デモ、 スゴク ウスイ ニオイダ ゾ?」
「掃除と薬品で匂いが薄れたからだ。殺害現場は多分ライオンの檻の中だ。
ええと……その近くに、ライオンの排泄物を始末する場所がないか?
そうだな、臭い消しの消石灰の袋と一緒に」
「あった! 檻の床板の角の所が切り取られてて、その下に穴が掘ってある。そばに消石灰の袋とスコップもある」
「ホントダ、 コショー ト アノオンナ ノ ニオイガ アナカラ シテル ゾ」
「檻の外から掘れるか?多分首はそこだ」
「わかった」
ザクザクと、スコップの掘る音が続いた。やがて、ワトソン君の悲鳴が上がる。
「ホームズあった。首があった」
「首にライオンの牙の跡があるだろう?」
「そ、そうだ。牙の跡が頸動脈の所にある、彼女はライオンに噛まれて死んだんだ!」
「マズイ ダレカキタ ニゲルゾ!」
黒兎の慌てた声の後、通話が切れてワトソン君と黒うさぎが戻ってきた。
「うわっ!ワトソン君、何で私の顔になってるんだ?」
「あ、それ? サーカスの誰も知らない顔だからちょうどいいと思って」
マザーがしれっと言った。
私の顔がサーカスの中で兎と散歩……シュールだ。
◇
「どうして殺したのがライオンだとわかったの?」
モリアーティが信じられないと言う顔をして聞いた。
「君があの芸の話をしてくれたからだよ。ライオンの口の中に頭を入れてにっこり笑う芸をしてる時、髪の毛に胡椒が付いてたらどうなる?
嫌でもくしゃみが出てライオンは口を閉じる。女の頭を咥えたままでだ。
ライオンが悪い肉を食べて吐いた、つまりB・Bを食べたから吐いた。
正直ピエロは、まさに本当のことしか言わなかったんだ」
その場の全員が絶句した。とても簡単で、とてつもなく残忍な方法だった。
「なぜ首を隠したんです?」
五代目が、聞いてきた。
「ライオンが人を噛んで殺したら、殺処分は免れない。
シンバはわざとクシャミをしたわけじゃない、ピエロは可愛がっていたライオンを殺したくなかったんだろう。だから首を隠さなきゃならなかったのさ。
こうして我々は想像力を働かせて事件を仮定し、その仮定に従って取り調べの歩みを進めた結果、その仮定の正しかったことを確認したわけだ」
*******
(*注)犯罪学の初歩。ロカールの法則ともいう。エドモンド・ロカールにより提唱された。ロカールはシャーロック・ホームズの小説からヒントを得て、この法則を作ったと語っている(本当です)。
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