第19話 モリアーティ、黒兎と賭けをする
「いや、僕も別に行きたいわけじゃ……」
ワトソン君が渋っていると五代目が耳打ちした。
「お願いです付き合ってあげて下さい。モリアーティ君マジックショーに出てる、アイリーン・チャンて言うB・B似の女の子が好きで、通い詰めてるんです。
僕も付き合ってたんですけど、五回超えると流石にキツくて。
ショーはまちがいなく面白いですから」
そうして、モリアーティはワトソン君と黒兎と、三人で出かけていった。
「さて、これでゆっくり話せるな。五代目、わたしになにか話があるんじゃないのか。それでマザーと一芝居打って、私をここへ連れてきたんだろう?」
私がそう言うと、マザーが困った顔でこちらを見た。
「やっぱりわかっちゃった? 上手くやったつもりだったのに」
「バレバレです、貴女は顔に全部出ますからな。だいたい魔法のプロのあなたが、兎娘を人間にすることを思いつかない方がおかしい。
それに兎娘も、五代目が私に肩を貸して手が塞がっているからといって、玄関の鍵の隠し場所から、スリッパがどこにあるか迄知っていた。何度もここに来たことがある証拠だ。きみのお祖母さんも、しっかり人数分の料理を用意していたしね」
「あっ、いけない!」
あわてる兎娘を、五代目がかばった。
「すいません、僕が二人に頼んだんです。モリアーティ君のことを、どうしても相談したくて。僕が結婚して、モリアーティ君を一人にすると危険かもしれないんです」
◇
🎵不思議なものが見たければ、私たちと来るがいい、ハロウィン・タウンへ。
今日は楽しいハロウィン、かぼちゃが闇の中で叫ぶ。さぁ、不気味に一騒ぎ。
お菓子をくれなきゃ脅かすぞ♪
カボチャのアーチを潜りながらモリアーティが歌う。蜘蛛にコウモリ、魔女人形にドクロ。サーカスの飾り付けはハロウィン一色だ。
受付で吸血鬼が、蝋燭の灯りの中でもぎりをしている。隣で白い布を被った幽霊が、籠に入れた無料のフォーチュンクッキー(*注1)を配っているのを、もらって中に入った。
お菓子をもらったから、イタズラしないでねってことかな?
「ここのサーカスは中国雑技団出身のメンバーが多くて、技術はすごいし、回る地区によって出し物を変えるんだ。今はハロウイン向けで、『ナイトメア・ビフォー・クリスマス』(*注2)をイメージしてる。特にピエロのマジックショーに出てるアイリーンって子が、マリリン・モンローの再来と言われてる女優のB・Bこと、ベティ・バンブルビーにそっくりでさ、可愛いんですよ。楽しんでくださいね」
しかし、ワトソンも黒兎も渋い顔だ。
黒兎はフォーチュンクッキーのお煎餅をバリバリやけ食いしている。
どうやらくじの中身が「恋愛成就せず」だったらしい。
「もう、黒兎君ずいぶん機嫌悪いねえ。そんなにビオラちゃんのことが気になるの?」
「アタリマエダ シュゾクノ ソンボウガ カカッテ ルンダ」
「うーん、僕としては親友に幸せになってもらいたいんだけどなぁ。ワトソンさんも賭けに負けちゃったけど、本当は、二人の結婚には反対なんですね」
「まぁな」
ワトソンは渋々と言った。
「じゃあ黒兎君、今度は俺と賭けをしない? 君がそれに勝ったら、君とビオラちゃんがうまくいくよう手伝ってあげる」
「ホントカ!」
「本当。ただし負けたら、今度こそ諦めて、二人を祝福してやってよ」
「ウ…… ワ、ワカッタ。ナニヲ カケル?」
「そうだね、今マジックショーに出てる彼女、綺麗なプラチナブロンドだろ。アメリカのブロンド女性は、半分が染めた偽物と言われてる。あれが本物の金髪なら、君の勝ち。偽物なら俺の勝ち。どう?」
「ドウヤッテ カクニンスルンダ?」
「あの子はいつもショーの後で客席を回って、幸運の四葉のクローバーを配るサービスをするんだ。その時一本、髪の毛を失敬する。付け根まで金髪なら君の勝ち」
「OK。カナラズ マモレヨ」
🎵今日は楽しいハロウィン。驚きたくてうずうずしてる。
僕は、
仮面をつけたピエロが、ステージでジャグリングをしながら踊っている。
やがて音楽が止まり、スポットライトがピエロに当たる。
「ご来場の皆様、次は本日の目玉、美女のギロチンマジックです――」
*******
(*注1)フォーチュンクッキー。運勢が表記されているおみくじが入った焼き菓子。日本の北陸地方などで新年のお祝いに神社で配られていた辻占煎餅が、1894年サンフランシスコの国際見本市のアトラクションとして建設された日本庭園の茶屋で、お茶請けとして配られたのが始まり。サンフランシスコからアメリカ中に広まった。
(*注2)ナイトメアビフォークリスマス。1993年公開ミュージカル・アニメーョン映画。ティム・バートン原作。作中に🎵マークの入った歌詞はすべてこのアニメで歌われたもの。アメリカでハロウィンといえばこれなんです。
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