可愛くなっても幼馴染が振り向いてくれない
【警告】ご覧いただく前に、タグのチェックをお願いします
―――――――――――――――
私、
幼稚園の頃からの仲良しで、一緒に遊ぶ時も嫌な事や辛い事があった時も一緒にいてくれたから。
子供の頃、悠木くんのおじさんとおばさんに大きくなったら悠木くんと結婚すると言って、応援だってして貰ったから、もう親公認よね?
なのに中学校を卒業する頃になっても悠木くんとはハッキリ付き合えないまま。
それ所か、趣味の話が嚙み合わなくなったり、遊ぶ友達グループが違う様になったりとどんどん疎遠になっていった。
私がよく読む恋愛漫画では、このまま何もしないとそのまま他人みたいな関係になって、途中で出て来た女の子が男の子とくっついてしまう事が多かった。
「悠木くん!昔からずっと好きでした!私と付き合ってください!」
だから私は悠木くんからの告白を待っていられなくて、卒業式の後に悠木くんに告白した。
「えっと……、ごめんなさい。俺は、コナツの事を姉か妹みたいな家族にしか思えなくて……付き合えない」
でも振られてしまった。
ありきたりな、近過ぎる距離感が理由で。
その日はショックで何も出来ないまま家に帰って引き込もったけど、すぐ立ち直って答えを出した。
家族みたいで振ったのなら、家族に見えないくらい可愛くなればいいと。
だって、恋愛は可愛いのが正義だから!
翌日、私はいつもの様に悠木くんの家に遊びに行った。
「え?コナツ、どうして来たの?」
悠木くんは私がもう来ないと思ったのかびっくりした。
「振られたからってそのまま絶交になるとか、冷た過ぎじゃない?それに、私まだ諦めてないから」
私はビシッと指を突き刺して宣言する。
「今よりもずっと可愛くなって悠木くんを振り向かせて見せるから!覚悟してね!」
「ええ……」
悠木くんはちょっと引いたみたいだけど、私は挫けない。
超可愛くなって、絶対に悠木くんを振り向かせて見せる!
それから私は、今まであまり気にしてなかった肌のケアやメイク、運動や食事制限とかに気を使い始めた。
そうしたら元々素材が良かったのか、私は自分でも見違えるくらい可愛くなった。
うん、これなら勝てる!
私と悠木くんの進学先の高校は一緒。
高校を決める時はまだ告白とかしてなかったから、普通に話し合って一緒の高校に決めてたから。
さらに幸運にも、高校一年目のクラスも一緒だった。
あれから悠木くんは地味に私を避けようとしてるし、来年以降も悠木くんと一緒のクラスになれる保証は無い。
だからこの一年の内に決める!
私はとにかく必死に悠木くんにアピールした。
クラスメイトにも悠木くんが好きだと公言して、気後れした悠木くんが告白しなくて私が待ち惚けにならないよう、何度も告白して付き合おうと誘った。
変な誤解を買わないように、男子生徒とは絶対仲良くしなかったし、グループで遊ぶ時も男子がいるのは必死に避けた。
逆に私を避けようとする悠木くんを強引に捕まえて、買い物やカラオケ、ゲームセンターとかに連れ回して一緒に遊んだ。
たまに小遣いが足りなくて悠木くんに奢って貰ったりしたけど、悠木くんだって可愛い私とデート出来たんだから、デート代くらいは喜んで出してくれたはず。
悠木くんに構う私に対して、大体のクラスメイトの女子は「あんな陰キャもうほっといた方がいい」って言って来るど、そんな事言う子とは絶交した。
むじろ私を応援してくれる
「ねえハルコちゃん。まだ悠木くんが付き合ってくれないんだけど、私、何かアピールを間違えてるのかな」
「そんな事無いよ。可愛い女の子に迫られて嫌な男の子はいないから、今までみたいにガンガン押せば行けるって!」
「……だよね!ありがとう!」
相談に乗って貰ったり、一緒に遊んだ後はいつもハルコちゃんがスマホを見てから先に帰るんだけど、もしかして好きな人に会いに言ってるのかな。
今度、私が相談された時は、ハルコちゃんを応援しようと決めた。
でもいつまで経っても悠木くんとは付き合えないまま、バレンタインが近付いて来た。
私はこのバレンタインでこそ悠木くんに見て貰うつもりで、貯めたお小遣いをつぎ込んで手作りチョコを作った。
ハート型のピンク色のミルクチョコの上に、ホワイトチョコで『大好き』と書いて。
悠木くんは要らないと言ってたけど、そんなの知らないもんね。
あ、コスメが切れて来てる。でも小遣いほとんど使っちゃったし……、悠木くんと付き合えたらすぐにでもプレゼントして貰おう。
私はバレンタイン当日の朝、一人で登校する悠木くんを捕まえて、バレンタインチョコを渡した。
拒否されたから無理矢理鞄に入れて、その後は照れてしまって先に学校に来てしまったけど。
でも悠木くんがあのチョコを食べれば、私の気持ちも届いて付き合える様になるはず。
私は悠木くんの感想を楽しみに待った。
……なのに悠木くんはいつまで経っても来なくて。
「コナツちゃん。君のチョコ、美味しく食べたよ。大好きって書かれたのが心にぐっと来た。ホワイトデーに三倍返しするって約束するから、俺と付き合ってくれない?」
悠木くんではなく、荒井くんがチョコの感想と告白を言って来た。
荒井くんとはクラスメイトで、たまに悠木くんと遊んでる所を見かけたりするけど、男同士の付き合いを邪魔したくないし、荒井くんと仲良くなってるとも思いたくなくて距離を置いてる。
はっきり言って赤の他人だ。
……なのにどうして?
「どうしてあんたが私のチョコを食べたって言うの。嘘つかないで。私は悠木くんにだけチョコを渡したんだから」
「いや、ちゃんと俺が食べたよ。ほら」
荒井くんが取り出したのは、私がチョコの梱包に使った箱だった。
「どうしてあんたがそれを持ってるの!本当にあんたがチョコを食べたの?どうして!!!」
「さあ?長岡の奴にでも聞けばいいんじゃないか?」
私はそのまま椅子を蹴って、すぐ悠木くんの家に向かった。
悠木くんの家に着いて玄関ベルを鳴らしても何の反応も無かった。
おじさんとおばさんは共働きで、悠木くんも家にいないのかも知れない。
そう思い、スマホで悠木くんに電話を掛けた。
『もしもし』
少しして、悠木くんが電話に出てくれた。
「悠木くん!学校来なかったけどどうして!?あと何で荒井が私のチョコの感想を言うの!?」
私はすぐ吐き出すように問い詰めた。
『……途中で転んで怪我したから、そのまま家に帰ったよ』
「そう?じゃあ玄関のドア開けてよ。今私、悠木くんの家の前にいるの」
私と悠木くんは幼馴染だけど、漫画みたいに顔パスだったり、家の合鍵を持ってたりはしない。
ウチはともかく悠木くんのおじさんとおばさんが許さなかったから。
風呂だって一緒に入った事がない。
私は悠木くんと結婚するつもりなのに、そういう所で真面目な人なのだ。
『悪い。あまり動きたくないから、話なら電話で頼むよ』
怪我したからかな。私が看病したいけど……入れて貰えないんじゃ仕方ない。
「……そう。じゃあもう一度聞くけど、荒井が私のチョコを食べたって言ったけどどうして?私、悠木くんにしかチョコ渡してないのに?」
『コナツのチョコは……俺が荒井に売ったんだ』
「え?」
売った?
私が必死に作ったチョコを……?
『いい値段を出されてさ。ホワイトデーのプレゼントの代金が浮くと思って売ったよ。それで浮かれてたら電柱にぶつかったんだ』
悠木くんは嬉しそうな声で言う。
「……本当に……私のチョコを売ったの……?」
信じられない……。
悠木くん、いくら私を避けてもそんなに酷い事はしなかったのに……。
『ああ。荒井がコナツの事好きだって言ってどうしてもと頼まれてな。吹っ掛けてみたらあっさり頷いてくれたわ。金持ち様様だな』
でもそうでもないと荒井くんが私のチョコを食べた理由が説明つかない……。
「ひどい……サイテー!!!」
思いっきり叫んで電話を切り、私はそのまま家に帰って部屋のベッドで泣き崩れた。
確かにチョコが要らないって何度も言われたけど、押し付けられたからってそれを売るなんて……酷過ぎる!
悠木くんなんてもう知らない!
私じゃなければ女の子と仲良く出来ないくせに!
私と付き合えなくなって一生一人身で生きて後悔すればいい!
泣き疲れて眠った翌日。
私は学校をサボった。
私の様子に察してくれたのか、両親は何も言わないでくれた。
一人で色々考えると頭が冷えて、別の考え方が見えて来た。
もしかしたらチョコを売ったっていう悠木くんの言葉は嘘かも知れない。
強引に奪われたか、売らされたかで。
そして悠木くんは私に嫌われようとあんな言い方をしたのかも。
今からでも学校に行って、悠木くんと話し合えば、すぐ付き合うのは無理でも、関係を修復するのは出来るかも。
そう思って支度し、学校に着いた時はもう放課後になってた。
私は悠木くんはいないのかクラスの友達に聞いたけど。
「長岡くん?彼ならハルコちゃんを校舎裏に呼び出して今いないけど……、あれはどうみても……。コナツちゃん、もしかしてまた振られたの?」
友達が遠慮がちに答えてくれて、私は返事もしないまますぐ校舎裏に走って行った。
物凄い胸騒ぎがする。
まさかだよね?
二人で私の事を相談しようとしてるだけだよね?
早とちりして怒ったら、裏目になるだけだよね?
でも校舎裏に着いた時。
悠木くんとハルコちゃんがキスしていうのを見て、私の期待は無惨に砕け散った。
私は悠木くんにキスして貰ってないのに……!
「悠木くんとハルコちゃん……どうして……?」
問い詰めるように言うと、ハルコちゃんが悠木くんの腕に抱き付いた。
……いやらしく笑いながら。
「コナツちゃん。私と悠木くん、付き合う事になったんだ。祝福してくれるよね?」
「ふざけるな!私を応援してくれるって言ったのに!」
「確かに言ってたけどさー。今の今まで何の進展もなかったじゃない」
「裏切り者!泥棒猫!」
ハルコを罵倒した後、悠木くんを向いて叫ぶ。
「悠木くん、考え直して!そんな地味なのよりも私がずっと可愛いじゃない!」
「右川さん……。見た目で人を見下すとか、幻滅するぞ」
「だって!それじゃ、悠木くんの為に可愛くなった私の努力はどうなるの!」
「次に好きな相手が出来た時にアプローチしやすくなるだろ」
「嫌!悠木くんと付き合えないなら意味ないよ!悠木くん!昨日怒ったのは謝るから、私と付き合ってよ!」
「右川さんが何と言っても、俺は右川さんとは付き合わない。諦めてくれ」
取り付く島もなく、悠木くんに振られてしまった。
呼び方だって、苗字呼びになって……。
「っ……うわああああああああ!!!」
堪らず泣き出してしまった。
悠木くんはそんな私を差し置いてハルコと一緒に去って行き、私はもっと泣いた。
泣き止んで家に帰った後、友達のグループチャットでハルコの裏切りを糾弾する言葉を書き込んだ。でも。
『ええ、でもコナツちゃん、長岡くんに何度も振られてたんでしょ?なのに取ったと言われても……』
『次はもっといい相手見つかるって。長岡くんの事は忘れよう』
と返されて、誰もハルコを非難しなかった。
私が先に好きだったのに!
振られたなら、誰と付き合ってもいいって言うの?
私はやり切れない気持ちでスマホをベッドに投げた。
それから、悠木くんとハルコがこっそりイチャつくのを見て歯軋りしたり、
悠木くんがハルコと付き合った事で私が完全にフリーになったと思ったのか、勘違いした男共が私にちょっかいを掛けて来た。
全部ぶった切ったけど。
特に荒井。私に言い寄るあいつにチョコの件を何度問い詰めても、「貰った」とはぐらかして奪ったとは頑なに認めなかった。
荒井が私のチョコを奪ったのだって、私が悠木くんと引き裂かれた原因の一つに違いない。
絶対に許さない。
ホワイトデーの日になった。
頑張って金と努力を掛けてチョコを作ったのに、お返しなんて貰えそうにない。
だって、悠木くんはチョコを食べてないし、もうハルコと付き合ってるから……。
代わりに荒井の奴がお返しの菓子折りを持って来たけど、突っぱねてやった。
そして教室を出て階段を降りる途中。
「コナツちゃん、ちょっと待って」
ハルコに呼び止められて、足を止めた。
「何?」
「これ。悠木くんの代わりに渡しに来たの」
そう言ってハルコが梱包された箱を差し出した。
「チョコは食べてないけど、最後だから筋としてだって。じゃあ、ちゃんと渡したから」
ハルコは私に箱を押し付けて、クラスの教室に戻って行く。
私はすぐに箱を開けてみた。
もしかしたら、箱の中に悠木くんの気持ちが残ってるのかもと期待して。
なのに箱から出たのは白いハンカチだった。
最後のホワイトデーのお返しがハンカチって……完全にお別れ宣言じゃない……!
こんな物要らない!
怒りのままハンカチを階段に叩きつけて、私はハンカチを捨てたまま家に帰った。
「コナツ!大変よ!悠木くんが!」
夕方、母さんが突如部屋に入って来た。
「悠木くんがどうしたの?」
「階段で足を滑らせて、頭を打って病院に運ばれたって!」
「え?」
その知らせで、私の頭は真っ白になり、悠木くんが私を捨てた事とか、どうでもよくなった。
すぐ悠木くんが入院した病院に向かった。
「悠木くん!大丈夫!?」
病院に着いてすぐ悠木くんの病室に入ったけど、悠木くんは私を見て遠慮がちに言う。
「はい。大丈夫です。ところで……どちら様ですか?」
まるで初めて会う人に接するみたいに。
「え?」
「すみません。頭を打った所為か記憶喪失になって。多分同級生ですよね?名前を聞いてもいいですか?」
「あ………」
記憶……喪失……?
私の事を……覚えてない……?
昔から一緒だから幼馴染なのに……。
覚えてないんじゃあ、幼馴染じゃなくなるじゃない……。
「あっ、ハルコ?この人、入って来て急に何も言わなくなったけど、誰?」
「……知り合いよ。ちょっとショック受けてるだけだから気にしないで。あんたはこっち来なさい」
呆然としていると、ハルコが病室に来て私を廊下に連れ出した。
「コナツ、あんた悠木くんの事故についてどこまで聞いてるの?」
ハルコは敵意が籠った目で聞いて来た。
「えっと……、階段で足を滑らせたとしか……」
「じゃあ、足を滑らせた原因は?」
「知らない。モップの掛け過ぎとかじゃない?」
「……!」
その瞬間、ハルコは私を殴りかかる振りを見せて、自分で抑えた。
「……悠木君が足を滑らせたのはね。階段で荒井とあんたの事で喧嘩になって、取っ組み合いになった時にハンカチを踏んだからなの。……白いハンカチをね」
「え?……白いハンカチ……?」
それって……もしかして……。
「私ね。悠木くんと一緒にあんたへのお返し選んだから、あの箱の中身についても知ってるの。そしてあんたに渡したのも階段だったよね」
じゃあ……あの事故の……記憶喪失の原因は……。
「別にあんたを責めてもしょうがないのは知ってる。あんたがそれを捨てる以前に、私だって階段で渡してなかったら、悠木が荒井とあそこで喧嘩にならなかったら……とか色々後悔してる。……間が悪かっただけよ。
……それとも、これは天罰なのかもね」
天罰……。
それって、誰に対しての……?
「悠木くん、頭だけじゃなくて右肩も怪我して、今後一生不自由が残るんだって」
怪我って、頭だけじゃなくて肩を……?不自由が一生……?
「だから私も、罰を受けたつもり。私と荒井について全部話して、一生悠木くんを支えて生きるから」
不自由する悠木くんを支えて生きるって……。
不謹慎にも、羨ましいと思ってしまった。
「あんたは……二度と悠木くんに関わらないで。この……」
ハルコは私の横を通り過ぎながら呟く。
「……疫病神」
その言葉が、耳にこびりつくように残った。
後日。ある事実が明かされた。
ハルコが荒井と手を組んでて、ハルコが私の気を逸らしてる間に荒井が悠木くんをイジメてて、その後にハルコが悠木くんを介護するマッチポンプをしてたという事実が。
他でもないハルコが自白したのだ。
ハルコと荒井の間に交わされたチャット履歴が証拠になって荒井も言い訳出来なくなった。
結果、ハルコと荒井は退学に。荒井の取り巻きたちは長期停学になった。
悠木くんが私の知らない所でイジメられてた事はショックだったけど、それよりも私は喜んだ。
これを悠木くんが知れば、ハルコと別れるはず!
私は早速病室に訪れて、悠木くんにこの事を伝えた。
「えっと……。右川さん、だったか?俺はハルコとは別れない。その事はもうハルコから聞いてたけど、イジメられてた事とか記憶にないからあって無いような事だし、ハルコは俺をずっと看病してくれたからな」
なのに悠木くんは私の期待とは違う言葉を返した。
「でも!記憶にないからあって無いようなら、ハルコと付き合わなくてもいいじゃない!私と付き合ってよ!私がハルコよりもずっと前から悠木くんの事好きだったんだよ!」
元の悠木くんは私を家族みたいな相手に見てたから振ったけど、記憶の無い悠木くんなら可愛い私を選ぶはず!
すがりつく様に言ったけど、悠木くんは困ったような顔をする。
「……ごめん。右川さんは可愛い過ぎるから……気が引けて付き合うのは無理」
「え……」
その言葉に、私が今まで努力した思いが木っ端微塵に崩れ落ちた。
悠木くんに振り向いて欲しくて可愛くなったのに、記憶がない悠木くんでも可愛いから無理って……。
私、可愛くならなければ良かったの?
それから……悠木くんが転校した。
退学になったハルコの編入先の高校に付いて行くらしい。
私は何とか転校を止めて欲しくて、悠木くんのおじさんとおばさんにお願いしたけど、冷たく断られた。
幼馴染の情に訴えても見たけど「幼馴染なんて付き合いの長い友達で、将来の選択に口出しする謂れはない」と言われて。
それっきり悠木くんと音信不通になり、あっという間に八年が過ぎた。
私は高校を卒業し、適当な大学に入り、街中でスカウトされてモデルになり、大学を卒業した今もモデルをしている。
悠木くんと付き合って色んな事をすると夢見た青春なんて無かった。
結婚はしてないし、男と交際した経験も無い。
私の見た目に釣られて声を掛けて来る男共には一切興味がなかったから。
それと……。
もしも、今にでも悠木くんが記憶を取り戻して、イジメの共犯だったハルコと喧嘩して別れ、私に戻ってくれるかもと期待してるから。
逆に悠木くんを諦めて他の男とくっついた途端に、記憶を取り戻した悠木くんと再会して「やっぱり自分じゃなくても良かったじゃないか」と言われるのも怖かったから。
そして今日。
本当に久しぶりに悠木くんから手紙が届いた。
期待一杯ですぐ手紙を開けたけど……。
手紙は悠木くんとハルコの結婚式の招待状だった。
同封された写真には、右肩が下がったタキシード姿の悠木くんと、生まれたばかりに見える赤ちゃんを抱えているウェディングドレス姿のハルコが写ってた。
「こんな物!!!」
むしゃくしゃした気持ちのまま招待状を写真ごと破り捨てた。
私は待ったのに、どうしてあの二人は勝手に幸せになるの!
天罰を受けたんじゃないの?
もし神様がいるなら、もう一度私を捨てて裏切ったあの二人に天罰を下ろしてくれればいいのに……!
その時、事務所から電話が来たので、電話に出ると衝撃的な事実が伝えられた。
仕事のために車で私を迎えに来てたマネージャーが他の車と衝突する交通事故を起こし、マネージャーと相手側車に乗っていた人が亡くなったらしい。
続いて聞くと、相手側の人の名前が……長岡悠木とハルコだった。
さらに六年の月日が過ぎた。
朝の支度をしていると玄関のチャイムが鳴り、玄関ドアを開けると息子の友達の斎藤フユカちゃんがランドセルを背負って立っていた。
「おはようございます、おばさん。シュウいますか?」
「いらっしゃいフユカちゃん。ごめんなさいね。シュウは今日もまだ寝てるの」
「じゃああたしが起こします!」
「ありがとね」
そのままフユカちゃんを家に上げて、息子の部屋に通す。
そうすると騒がしい音がしてから、フユカちゃんが息子の長岡シュウを部屋から連れ出した。
「ほら、しっかりしなさい!」
「うー。フユカちゃんウザい」
「なっ!せっかく起こしてあげたのにウザいって何よ!」
「そうよ。お友達は大事にしないと。顔洗ってから朝ご飯にしましょ。フユカちゃんはどうするの?」
「今日もお世話になります!」
「はい。フユカちゃんの分も用意するね」
そんな感じでいつもの朝の景色が始まる。
悠木くんとハルコが亡くなったの事故の後。
悠木くんの両親に預けられてて難を逃れた二人の息子のシュウを、私が引き取った。
もちろん簡単ではなかったけど、間接的な事故の原因としての償いと、悠木くんとハルコの二人と友達だった関係と、シュウに一人でも親が必要な事を説いて何とか悠木くんの両親とハルコの両親に納得して貰った。
何て全部言い訳。
本当は悠木くんそっくりな子供のシュウを私の子供として育てたかっただけ。
だって、もう私が悠木くんの子供を産むのは無理だから。
さらに、悠木くんの苗字を変えるのは忍びないと言い訳して、面倒な手続きを経て私の苗字を長岡に変えた。
それで悠木くんと結婚した気持ちになった。
シュウにとっても、記憶にある母親は私だけで、父親はシュウの赤ちゃんの頃に亡くなったと教える。
そして泥棒猫のハルコなんてシュウにとっては最初からいないも当然の人にした。
悠木くんがいないのは残念だけど、私は今最高に充実してる。
「ママ、行って来まーす」
「おばさん、あたしも行って来ます!」
「はい。車に気を付けてね」
支度を終えて小学校に向かうシュウとフユカちゃんを見送る。
あの二人も、私と悠木くんみたいな幼馴染になるのかな。
そうなったら二人には無事に結ばれて欲しい。
ちゃんと結ばれなかった私と悠木くんの代わりに。
もし、もしも万が一にも、二人のどちらかが私の期待を裏切るような事があったら……。
ゼッタイニユルサナイカラ
―――――――――――――――
これにて本作は終了になります
最後まで読んで頂きありがとうございました
本当は高校卒業後をもっとドロドロに書く予定でしたけど、高校卒業の時点で短編にする予定よりも長くなり過ぎて、色々没にしました
終わり方ももっとひどいバッドエンドだったのを、更新直前に修正してます
3/19(日)頃に近況ノートで蛇足ですが色々(没ネタとか自己感想など)長い後書きを書く予定ですのでよろしくお願いします<(_ _)>
可愛くなり過ぎた幼馴染の結末 無尾猫 @aincel291
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます