いくら可愛くなっても幼馴染は負けフラグよね?

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 私、三嶋みしまハルコは高校に入って好きな人が出来た。


 その相手は同じクラスの長岡ながおか悠木ゆうきくん。


 内向的でちょっとおどおどしてるのが可愛く見えて、なのに自分の芯を持ってそうなのがぐっと来た。


 でも長岡くんはいつもクラス一の美少女の右川みぎかわコナツに何度も告白されて、それをいつも告白を断ってる事で目立っている。


 長岡くんとコナツちゃんは幼稚園の頃からの幼馴染らしい。


 でも私はコナツちゃんの告白を何度も断る長岡くんの芯を感じだ。


 それについて「右川さんの告白を断るとか何様」とか「逆に身の程弁えてるんじゃない?」など色々意見があるけど、総じて長岡くんの受けは悪い。


 でもそれは全部コナツちゃんが長岡くんに絡んでいる所為だ。


 コナツちゃんが長岡くんに絡んでさえなければ、長岡くんはただいるだけのクラスメイトな感じだったでしょうに。


 おかげで、私も長岡くんにアピール出来ないでいた。


 この状況で長岡くんにアプローチしたら、長岡くんが既にコナツちゃんを振ってたとしてもコナツちゃんが諦めてないから、私が泥棒猫扱いされる。


 だから私はコナツちゃんの友達になって、虎視眈々とチャンスを伺った。


 そしてある放課後、クラスの男子たちが廊下の隅で話してるのを聞いた。


「なあ、ほんとに右川さんを狙うのか?あの子は長岡にぞっこんなんだぞ?」


「知ってるよ。でも長岡は振ってんだろ?ならいくらでもチャンスはあるって」


 どうやらクラスメイトの荒井あらい和弘和弘くんがコナツちゃんを狙ってるみたいだった。


 荒井くんはクラス一のイケメンで、家もお金持ちだから友達によく奢ったりして男女問わず人気が高い。

 そんな荒井くんがコナツちゃんと付き合うなら確かにお似合いだって言えるだろう。


 そして私は長岡くんと……。


「ねえ、その話、私も混ぜてくれない?」


 いい事思い付いて、私は荒井くんたちに声を掛けた。


 それから私と荒井くんの協力が始まった。


 私がコナツちゃんを遊びとかに誘って長岡くんから引き離す。


 その隙に荒井くんがコナツちゃんに内緒で長岡くんを殴ったりしてイジメる。


「てめぇ如きが右川さんの告白を受けるとか、百年早いんだよ!」


 イジメる際に、コナツちゃんの事で嫉妬してイジメてると言わせる事も忘れずに。


「楽しかったよハルコちゃん!また遊ぼうね!」


 バカで呑気なコナツちゃんは自分が遊んでいる時に長岡くんがイジメられてる事も、私がこの後長岡くんの所に行く事も知らないのだろう。


「長岡くん、怪我してるの!?」


「……大丈夫」


「大丈夫じゃない!手当てするからこっちに来て!」


 コナツちゃんと別れた後、私は荒井くんから長岡くんをイジメた場所を聞き、長岡くんを見つけ介護する。


 そんな感じで繰り返したら、長岡くんがどんどんコナツちゃんを嫌いになり、私に気持ちが頷いて来るのをはっきり感じ取れた。


「ハルコちゃん!私、今年のバレンタインも悠木くんにチョコを渡すんだ!本当は要らないって言われてたけど……それでも今年こそ気合を入れた手作りチョコで悠木くんの気持ちを掴むから!」


 バレンタイン前。

 裏でどうなっているのかも知らず、コナツちゃんは夢見がちな事ばかり言う。


「そうなんだ。……ちなみに、チョコはどこで渡すつもり?」


「それはね。クラスじゃちょっと恥ずかしいから……、登校する時に悠木くんに渡すつもり。幼馴染で通学路が一緒だからね」


「そう」


 私はその情報をさっそく荒井くんに流した。


 長岡くんたちの通学路は把握済みだから、荒井くんは難なく長岡くんからコナツちゃんのチョコを奪えた。


「長岡くん!大丈夫!?」


「うん、大丈夫」


「全然大丈夫じゃないじゃない!ウチで手当するから、今日はもう学校休んで!」


「いや、それは……」


「いいから!」


 その後、私は素知らぬふりして長岡くんを家に連れ込み、怪我の手当てをした。


 怪我の手当ても、もう慣れたなー。


「ごめんね、コナツちゃんが長岡くんに迷惑掛けて」


「いや、三嶋さんが謝る事じゃないよ」


 手当てしながら、さりげなくコナツちゃんの所為だと思い出させる様に言った。


 最初、悪いのはコナツちゃんじゃなくて荒井くんだと言い、心配掛けたくないからイジメを内緒にして欲しいと言ってたのに。


 今ではもうコナツちゃんの所為じゃないと否定もしない。


 そろそろ仕上げる頃合いか。


「じゃ、じゃあ。俺はもう帰るから」


「待って長岡君。これ、受け取って欲しいの」


 手当てを終えて、家から出ようとする長岡くんを引き止めて、バレンタインチョコを差し出した。


「その……本命だから!返事はすぐじゃなくていいから……待ってるね!」


 長岡くんはチョコを受け取って、ふらふらと家を出た。


 あの様子、間違いなく私を意識してる。


「勝った……」


 窓越しに長岡くんの後ろ姿を見送って、私はつい呟いた。


 遅れて学校に行くと、クラスの空気は大分荒れていた。


 曰く、荒井くんがコナツちゃんのチョコを食べたと。


 証拠にコナツちゃんの名前が入った梱包の紙があったから間違いないと。


 ならコナツちゃんもそろそろ長岡くんに愛想尽かして荒井くんに乗り換えたのかと。


 でもコナツちゃんは長岡くんにしかチョコを渡してないのだと。


 なら何故荒井くんがコナツちゃんのチョコを食べたのかと。


 そもそも長岡くんが欠席したのって、コナツちゃんを避けたからじゃないのかと。


 色んな噂に耐えられなかったのか、コナツちゃんは昼休み時間に学校を早退した。


 コナツちゃん、本当にバカな子。


 長岡くんには、コナツちゃんがイジメの原因の疫病神だと刷り込み済みで、もう手遅れだというのにね。


 翌日には、前日と逆にコナツちゃんが欠席して長岡くんが登校した。


 そして放課後、とうとう長岡くんに校舎裏に呼び出された。


「えっと……、三嶋さん。ホワイトデーとかはまだ先だけど……、これ、受け取って欲しい」


 長岡くんは顔を真っ赤にして、お菓子が梱包された箱を差し出して来た。


「それで……、俺、三嶋さんが好きです。俺と付き合ってください」


 勝った……!本当に勝った……!


「はい。私も長岡くんの事が好きです。これからよろしく」


 私はお菓子を受け取って返事した。


 そして雰囲気に流されるまま、どちらからと言うまでもなく、私と長岡くんは口付けを交わした。


「悠木くんとハルコちゃん……どうして……?」


 その時、不意に聞こえた声にパッと顔を話して振り向くと。


 明らかにショックを受けた表情のコナツちゃんがいた。


 ついつい、口の端が吊り上がってしまう。


 コナツちゃん、長岡くん……ううん、悠木くんは私が貰ったよ?


 悠木くんに振り向いて貰う為に可愛くなったらしいけど。


 恋愛はね、可愛いからって勝てると決まった訳じゃないから。


 むしろあんたは頑張り過ぎたのよ。


 悠木くんに釣り合うのはあんたじゃなくて私なの。


 それに……幼馴染なんて、所詮は負けヒロインのフラグだよね?


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