可愛くなり過ぎた幼馴染の結末
無尾猫
幼馴染が可愛いからといい事なんて無い
【警告】ご覧いただく前に、タグのチェックをお願いします
―――――――――――――――
「はい、悠木くん。今年のチョコよ」
高校一年の2月14日。
俺、
「え……、もう要らないって言っただろ」
すぐチョコを受け取る事はせず、つい文句を言ってしまう。
チョコを断る理由は、言っては悪いけどホワイトデーのお返しで小遣いを減らしたくなかったからだ。
うん、自分でも最低だとは思う。
でもコナツだってバレンタインチョコに小遣いを使ったからと、ホワイトデーも待たずに埋め合わせとして俺に奢らせて、そのくせ俺のホワイトデーの出費には埋め合わせしないんだからお互い様だ。
「え~、渡すのは私の勝手でしょ?」
「……ホワイトデーのお返しはしないからな」
「サイテー。ホワイトデーをぶっちしたらおばさんに言いつけるんだからね」
「じゃあ要らない」
「いいから受け取りなさい」
コナツは強引にチョコを俺の鞄にねじ込んだ。
「じゃ、私は先に行くから」
そしてコナツは小走りで先に学校へ向かった。その後ろ姿で、彼女のポニーテールが揺れる。
多分照れたのかも知れないな。
「はあ……。どうすんだよ、これ」
俺は足を止めたまま、押し付けられたチョコを鞄から取り出した。
俺の幼馴染、右川コナツは誰が見ても可愛い顔に、程よく育ったスタイルに、誰に対しても人懐っこい態度で接するので、簡単に言うとモテる。
それに対して俺はゲームが趣味な何処にでもいる普通の男子高校生。
なのにコナツは他のクラスメイトよりも俺に遠慮なく親しく接して来るから、俺はクラスの男子たちの嫉妬に晒されている。
単に幼稚園の頃からの距離感でそうしてる……訳ではないだろう。
実は中学の卒業式の日に、コナツに告白されてた。
でも俺は子供の頃から仲良くしてたコナツを恋愛対象ではなく姉か妹分としか見れなかったから、断った。
『私まだ諦めてないから、今よりもずっと可愛くなって悠木くんを振り向かせて見せるから!覚悟してね!』
なのにコナツは諦めずにそう言ったのだ。
それから同じ高校に進学したコナツは本当に可愛くなった。
昔振ったのを後悔する……よりもこっちが気後れするくらいに。
そして隙あらば「私、可愛くなったでしょ?今からでも付き合う?」って誘って来るのだ。
既に振ったからと、俺が何度も断っていくら距離を置こうとしても離れようとしない。
そのおかげで……
「コナツちゃんのチョコ、もーらい」
とか考えていたら、手に取ってたチョコを取り上げられた。
驚いて顔を上げると、目の前にはクラスメイトの男子、
「長岡、お前にコナツちゃんのチョコは勿体ねえよ。これは俺が美味しくいただいてやるぜ」
荒井はこっちを見下すようににやけながら言う。
はあ、そう来るか……。
そう。コナツに親しくされている俺は、男子の嫉妬を買ってイジメられているのだ。
「どれ、御開帳」
俺が無抵抗でいると、荒井はこれ見よがしにチョコの梱包を破って、中から「大好き」とホワイトチョコで書かれたハート型のチョコを取り出した。
「はい、コナツちゃんの大好き、いただきまーす」
荒井はチョコを二つに折って、一気に全部口の中に入れた。
そしてしばらく咀嚼してから、飲み込む。
「長岡、コナツちゃんの大好きを取られてどんな気持ちだ?うん?」
「……別に」
確かに悔しい気持ちはあるが、そのまま言ってもこいつを喜ばせるだけだから適当に突っぱねた。
「そうか。コナツちゃんも可哀想だなー。こんなモブ野郎に騙されて好きって気持ちを搾取されるだけだからなー。お前らもそう思うだろ?」
「その通り!右川はこんな奴よりも荒井にお似合いだって!」
荒井が自分の取り巻きを見回し、取り巻きたちは同意を示した。
この荒井、学校でも人気のイケメンで、家が金持ちだが、性格が悪い。
なのにコナツを狙っていて、そのコナツと仲良くしてる……というかコナツにアプローチされてる俺が気に食わなくて、積極的に俺をイジメているのだ。
「じゃあ、学校行くから」
俺は自分を笑い者にする荒井たちをスルーして横を通り過ぎようとしたが、荒井に肩を掴まれた。
「ちょっと待てよ。俺たちからもお前にバレンタインのプレゼントがあるんだぜ」
「は?」
男からのバレンタインプレゼントとか、気色悪いんですけど。
「これだよ。食らえ!」
間髪置かず、腹に荒井のパンチを食らった。
「くはっ!」
パンチって、食べ物じゃないと思うんだが……。
「俺たちのも食らいな!」
崩れ落ちた俺に、取り巻き共も俺を殴ったり蹴ったりして来る。
俺は数の力に逆らえず、そのままリンチされた。
「これに懲りたらもうナツミちゃんに近寄るなよ。いっそ不登校になったり、転校でもすればどうだ?」
荒井はボロ雑巾みたいになって倒れた俺を見下して唾と一緒に吐き捨てるように言い、取り巻きを連れて学校に向かった。
俺は荒井たちの姿が見えなくなったのを見て、よろよろと立ち上がって学校に向かう。
全身が痛いし、制服も靴の跡で汚れっぱなしだ。
学校に着いたら真っ先に教室じゃなくて保健室に行こう。
それにしても、もう嫌だな……。
コナツが俺を好きじゃなかったら、荒井に目を付けられてイジメられる事もなかったのに……なんて思ってしまう。
いや、あの荒井の事だからコナツが俺を恋愛的に好きじゃなかったとしても、幼馴染というだけでイジメたかも知れない。
ならそもそも同じ学校に進学しなければ……いや、もう遅いか。
深く考えずにコナツと同じ高校に受かってから、卒業式に告白されたんだからな。
荒井に逃げるみたいでカッコ悪いけど、本気で親に転校をお願いした方がいいかも知れない。
イジメについては……証拠がないから親はともかく学校には信じて貰えないかもだが。
「長岡くん!大丈夫!?」
色々考えて歩いてたら、ふと声を掛けられた。
声を掛けて近寄って来たのは、同じクラスの女子の三嶋ハルコさんだ。
コナツの友達で、セミロングの髪の眼鏡を掛けた……いっちゃ何だがコナツよりは地味な子だ。
「うん、大丈夫」
強がって言ったけど、自分でも無自覚に声がかすれていた。
「全然大丈夫じゃないじゃない!ウチで手当するから、今日はもう学校休んで!」
「いや、それは……」
「いいから!」
俺は三嶋さんに無理矢理おんぶされて彼女の家に連れていかれた。両親は共働きでいないらしい。
三嶋さん、女子にしては俺と同じくらいに身長が高くて、力も強く、殴られてボロボロだった俺では抵抗出来なかった。
三嶋さんの家のリビングに上げられた俺は、そのまま救急箱を持ってきら三嶋さんに手当された。
「えっと、ありがとう三嶋さん。それとごめん。三嶋さんも学校サボらせちゃって」
「いいよ。長岡くんを放っておけなかったから」
屈託なく笑う三嶋さんに、俺は不意にドキリさせられた。
「じゃ、じゃあ。俺はもう帰るから」
「待って長岡君」
三嶋さんの家を出ようとして立ち上がったら、三嶋さんに引き止められた。
「これ、受け取って欲しいの」
そして三嶋さんは鞄から可愛く梱包された箱を差し出して来た。
これって……もしかしてバレンタインチョコ?
「その……本命だから!返事はすぐじゃなくていいから……待ってるね!」
それから俺は、コナツ以外の女の子から初めてチョコを貰って夢見心地のまま家に帰った。
ウチの両親も共働きだから家にいない。
部屋のベッドで横になって、三嶋さんの事ばかり考えた。
振り返れば、荒井にイジメられる俺をいつも三嶋さんが気に掛けてくれてた。
だからか、半ば告白みたいに三嶋さんにチョコを貰ったのが凄く嬉しい。
コナツは俺がイジメられてる事自体知らない。
そもそも荒井はコナツの目を避けてやってるし、俺もわざわざコナツに言ったりしなかったから。
三嶋さんにもコナツにイジメの事を内緒にして欲しいとのお願いしてた。
コナツがイジメを知った所でどうにもならない。むしろ行動を起こしたら逆に荒井のイジメも酷くなるだろう。
そんなコナツを俺は……
俺の考えと止めるように、家のチャイムが鳴った。
宅配とかだろうか。
動くのも億劫だから無視すると、今度はスマホの電話着信が鳴る。
画面を見ると、コナツの名前が映ってた。
少し考えて、電話に出た。
「もしもし」
『悠木くん!学校来なかったけどどうして!?あと何で荒井が私のチョコの感想を言うの!?』
ああ、さっきのチャイムはコナツだったか。
それと荒井の奴。コナツのチョコ食べたのを言ったのか。
いよいよイジメを隠す気も無くなって来たのかな。
それとも俺がコナツの気持ちを踏みにじったように見せようとしたのか。
「……途中で転んで怪我したから、そのまま家に帰ったよ」
『そう?じゃあ玄関のドア開けてよ。今私、悠木くんの家の前にいるの』
ラブコメとかでは幼馴染同士、顔パスだったり、家の合鍵を持ってたりするみたいだら、俺とコナツはそんな事していない。
というのも、幼馴染相手でも警戒は必要だからと俺の両親が許さなかったからだ。ウチの両親、長い付き合いの幼馴染相手でもシビアなんだよな。
「悪い。あまり動きたくないから、話なら電話で頼むよ」
『……そう。じゃあもう一度聞くけど、荒井が私のチョコを食べたって言ったけどどうして?私、悠木くんにしかチョコ渡してないのに?』
どう答えるか、少し悩んだ。
荒井に奪われたからと言う?
……今更?
それじゃ今まで荒井のイジメに耐えてた俺の努力はどうなるんだ?
言ったとしてもコナツに何が出来る?
そもそも何で俺はイジメを隠して耐えたんだ?
コナツが無駄な心配するからだか。
でも最初からコナツが……
………
……ああ、今ようやく分かった。
俺が今までコナツの気持ちに答えなかった理由が。
俺はコナツが嫌いなんだ。
とっくに振ったのに諦めなくて。
身勝手に好意を押し付けて、見返りを要求して。
しまいには荒井たちのイジメを呼び寄せて。
コナツは、俺にとっての疫病神なのだ。
いや、感情に任せて悪い言い方したけど、コナツは特に悪い事をしていない。
ただ周りが見えなかっただけ。
でも俺は、どうしてもコナツを受け入れられない。
だから……俺が悪い奴になろう。
「コナツのチョコは……俺が荒井に売ったんだ」
『え?』
「いい値段を出されてさ。ホワイトデーのプレゼントの代金が浮くと思って売ったよ。それで浮かれてたら電柱にぶつかったんだ」
すらすらと、即席で考えた筋書きが口から出た。
『……本当に……私のチョコを売ったの……?』
「ああ。荒井がコナツの事好きだって言ってどうしてもと頼まれてな。吹っ掛けてみたらあっさり頷いてくれたわ。金持ち様様だな」
『ひどい……サイテー!!!』
叫び声と共に電話が切れた。
「ほんと……最低だな……」
同意するように呟いて、スマホを手放した。
これでコナツ……いや、右川さんには嫌われただろう。
この後右川さんが荒井に慰められて二人で付き合おうが、逆にチョコを買ったと(実際は奪ったんだが)怒って二人の中がこじれようが、……俺にはどうでもいい。
チョコと言えば、三嶋さんから貰ったチョコがあったな。今の内に食べよう。
「はむ」
三嶋さんのハート型のチョコはほんのり甘くて美味しかった。
……うん。三嶋さんへの返事も、決まった。
―――――――――――――――
ホワイトデー間近なのもあって、思い付いたのを書きました
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます