深夜の出会い

折原さゆみ

第1話

「明日は卒業式だ」


 男は学校に通うのが苦痛だったが、それも明日で終わる。男は高校卒業後、進学ではなく就職を選んだ。


 卒業式前日、男はなかなか寝付くことが出来なかった。


 深夜二時を回り家族が寝静まった頃、男はこっそり家を抜け出した。男は真面目で、深夜に家を出たことは一度もなく、初めての体験に胸を躍らせていた。


「深夜の散歩は危険だよ」


 近所の公園に行くと、そこには先客がいた。ベンチに座る少女に声をかけられる。真っ白な髪を肩まで伸ばした高校生くらいの少女は、セーラー服らしきものを着ていたが、それもまた真っ白だ。明らかに異常な格好をした少女だが怖いとは思わなかった。


(そういえば、自殺する人が近所で多い気がする)


 自宅で首を吊る。薬を大量摂取する。いずれも深夜に実行されていた。


「私を見ると、みんな死んじゃうんだよ」

「オレはそうならない」


 なんとなく少女の言葉は本当な気がしたが、自分には当てはまらないと思った。


「あなたは○○○だから……」


 男は帰宅してからずっと少女のことを考えていた。どこかでみたことのある顔だった。



「今年でもう、還暦か」


 男は少女に出会ってから、深夜の散歩が日課となった。結婚して子供が出来たが、彼らは既に男の手から離れて自立している。妻には先立たれ男は独りで生活していた。


「あれからずっと、深夜に散歩しているんだね」


 少女は以前あった時と変わらなかった。


「君は幽霊だったんだ」


 少女は昔、いじめを苦に自殺していた。男の近所で自殺していたのはいじめの加害者ばかりだった。


「一緒に暮らそう」 


 男は死ぬまでずっと、周りから変人扱いされることになる。誰もいない空間に向かって話しかける姿が目撃された。それでも男の表情は明るくとても幸せそうに見えた。


 男は少女が生きているときから、彼女のことが好きだった。


(私も前から君のことが)


 少女もまた、男を生前から愛していた。

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深夜の出会い 折原さゆみ @orihara192

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