第3話

 乾杯の挨拶が済み、各々が自由に積もる話に花を咲かせていた。

 僕はカナガーのフクロウであるからそんな花を咲かせるようなフクロウもおらず、黙々と出された料理を食べていた。さすがキノクニー、繊細な盛り付けにして、奥行きのある味付け、なんて心の中で実況しながらうまいうまいと口に運ぶ。実際、何が使われてるか分からないが、とりあえず美味い。

「やあ、君がブッコロー君かな」

「げ」

 主催者のキノクニーだ。

 黒のジャケットに、シンプルなレジメンタルのネクタイ。だけど、よく見ると細かい刺繍が施してあるのが分かる。僕が持ってる一番高いネクタイの数倍はしそうだ。

 まぁ、着こなしているフクロウのオーラにあてられてそう思うのかもしれないが。

「だ、出された食事を美味しく頂いているだけですよ」

 ちょっと後ろめたいと思ってる事が漏れてしまった。

「いやいや、美味しいなら結構。そうじゃなくて、初対面だろう?よく来てくれたね。はじめまして、キノクニーだ」

「あ、R.B.ブッコローです。ご招待いただきありがとうございます」

「うん、まぁ、君に一度会いたかったというのもあるんだ」

 紳士らしからぬ視線で、頭のてっぺんからつま先までじっくりと見られている。足の爪を手入れしていないので、とっさに片足の後ろに隠した。意味ないけど。

「とても個性的な顔をしている」

(これは褒められている——訳じゃないよな)

「ジュンは貴族の世界が無くなると考えているようだね」

「え。えぇ―—」

「『電子の森』を只事ではないと、そう思ってるようだ」

「そのようで―—」

「まぁ、たしかに異様ではある。しかし、それだけだ」

この人、全然喋らせてくれないな

「僕らの力を持ってすれば、だ。燃やし尽くしてしまう事だって可能だとは思わないか?」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!燃やすなんてそんな乱暴な」

「燃やしてしまうなら今のうちだと僕は思うよ。アズマーンにいるフクロウの多数が同じ意見さ」

「ダマーチがかなり覆われてると聞きましたが」

「ダマーチ?そんな場所、アズマーンにあったかな?」

「へ?」

「アズマーンじゃ有名な話さ。アズマーンでも無ければ、カナガーでも無い。そんな場所なんだよ、ダマーチは」

「でも、人が住んでるんですよ」

「ダマーチの人間は文字が読めない」

「──だから、ヒトじゃないとでも言うのですか」

「アズマーンに馴染めず、かと言ってカナガーでも馴染めない、そんな人間が集まる吹き溜まりのような所なのさ」

「──!」

「我々が知恵を授けようにもね。どうしようもないじゃないか。僕達やその下で働く者達が生きるためにも仕方のない事なんだよ」

「貴族フクロウとしての矜持は!」

「店舗なくして、貴族フクロウたりえない!」

楽しく談笑していたはずの貴族フクロウ達の目線がこちらに注がれているのが分かる。

「本気なのですね」

キノクニーはまっすぐこちらを見るだけだ。他のフクロウ達も無言で同意を示していた。

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